アパート相続の流れと注意点 賃貸経営継続か売却かの判断基準とは?

2023.01.21

資産形成を考えて不動産投資を行う人が増えているなか、ご両親が亡くなった際の相続財産にアパートなどの収益物件が含まれていることも珍しくなくなってきました。現金や預貯金などの財産とは異なり、不動産、特に収益物件の相続には特有の手続きもあります。

状況によってはアパート経営を継続するべきか、売却した方がいいのかの判断もしなければなりません。今回はアパートを相続するメリットやデメリットはもちろん、経営継続か売却するかの判断についても詳しく解説します。

アパートを相続するメリット

アパートを相続することで得られるメリットがいくつかあります。まずは3つのメリットを確認しておきましょう。

相続税評価額を低く抑えられる

土地の価格には実際の売買で用いられる実勢価格のほか、土地売買の目安として国土交通省が発表する公示価格、都道府県が発表する基準地標準価格などがあります。ほかに固定資産税額を算出する基準となる固定資産税額評価額と路線価を加え、土地には「1物5価」と呼ばれる5種類の価格が存在します。

相続税の計算をする際、現金や預貯金などはそのままの金額で評価されます。株式なども時価100%で評価されますが、土地や建物などの不動産の相続税評価額は100%ではありません。相続税を算出するのに用いられる路線価は公示価格の80%程度です。

建物部分の相続税は固定資産税額評価額を基準に算出しますので、現金などよりも相続税評価額を低く抑えられるメリットがあります。

借りている人がいるアパートなど、借家と呼ばれる賃貸不動産の場合、土地や建物の所有者であっても自由に使ったり簡単には売却したりできません。借地権割合や借家権割合、賃貸割合などが加味され、マイホームとしての土地や建物よりもさらに相続税評価額を低く抑えられます。

土地部分の相続税評価額の計算方法

土地を借りている人が存在する賃貸不動産の相続税評価額は、先述したように借地権割合や借家権割合を反映させて算出されます。借地権は家を建てる目的で土地を借りる権利、借家権は土地の上にある建物の借主が建物を利用する権利です。アパートのような集合住宅では、賃貸に出している賃貸割合も加味されます。

計算式は以下になります。

更地としての評価額×(1-借家権割合×借地権割合×賃貸割合)

更地としての評価額は、路線価をもとにして計算されます。郊外など路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて評価されます。借家権割合は一律で30%、借地権割合は30~90%の範囲です。賃貸割合は賃貸に出している割合に応じて計算します。

建物部分の相続税評価額の計算方

賃貸不動産では建物部分の相続制評価額を計算する場合も、借家権割合や賃貸割合を加味して計算します。計算式は以下になります。

建物の固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)

建物の相続税評価額は固定資産税評価額を基準にして評価されます。一般的に固定資産税評価額は、新築時でも実際に建築費用としてかかった価格の約60%だといわれています。建物は時間が経つほど劣化するため、約3年に一度見直されるたびに評価額は下がるのが一般的です。

賃貸不動産では住んでいる入居者がいる分、借家権割合と賃貸割合が影響し、さらに評価額は抑えられます。借家権割合は一律30%、賃貸割合は物件の面積に対して賃貸に出している割合です。すべて貸しているのならば100%、半分貸しているのなら50%になります。

家賃収入を得ることができる

賃貸経営が軌道に乗っていれば、長期間にわたって安定した家賃収入を得られるのがアパートを相続する大きなメリットです。相続人がもともと生活に支障のない収入を仕事で得ていたとしても、病気や怪我などで仕事を続けられなくなる状況は誰にでも起こり得ます。アパートを相続することで家賃収入という収入源を確保できれば、万一の状況への備えになります。

相続後に入ってくる家賃収入は、相続人の財産です。本業で得ている収入に家賃収入が加われば、家計に余裕も生まれるでしょう。特に相続時すでにアパートローンを完済しているケースでは返済のリスクもなく、家賃収入で資産形成ができます。

子どもの学費が必要な時期ならば進学時の資金が確保できます。子どもにお金をかける必要がないのなら、自分たちの将来に備え、介護用資金として蓄えておくことも可能です。

相続する不動産によっては、相続税の支払いが負担になることもあります。相続税の申告期限は被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から、10ヶ月以内です。遅れれば延滞税が発生する場合があるため、期限内に納税しなければなりません。もし、相続税を支払うための資金を確保するのが難しい場合は、家賃収入を不足分に充てることも可能です。

ローン残債を相続対策に使える

アパートローンの残債があると負担に感じるかもしれませんが、悪いことばかりではありません。相続が発生した際に受け継ぐのは現金や預貯金、株式や不動産などプラスの財産だけではなく、ローンなどマイナスの財産も相続することになるからです。

アパートローンなどの借入金は債務控除の対象になります。相続税がいくらになるのかを算出する際、プラスの財産からマイナスの財産であるアパートローンの残債を差し引いて計算することが可能です。相続税算出のもととなる金額を減らすことができれば、当然、支払うべき相続税の金額も低く抑えられます。

被相続人がアパートローンを組んだ時点で相続税が減るわけではありませんが、相続が発生したときには債務控除で遺産総額から差し引けることが、相続対策として効果的だといわれる理由です。

ただし、アパートローンを組んだときに団体信用生命保険(団信)に加入しているケースでは注意が必要です。団信はローン返済中に死亡した場合などに、保険会社から支払われる保険金が残債に充当される仕組みになっています。万一のときのリスクに備えられるメリットがある団信ですが、ローンの残債はなくなってしまうため、相続対策としては使えません。

アパートを相続するデメリット

アパートの相続にはメリットがある一方、いくつかデメリットも存在します。リスクを抑えるために、デメリットも把握しておいてください。

アパート経営のリスク

空室リスクがアパート経営最大のリスクになります。入居者が退去することで一時的に空室が出ること自体は問題ありませんが、長期間次の入居者が決まらなければ、その分の家賃収入が見込めなくなります。

空室が発生していなくても滞納する人がいれば、やはり家賃が入ってこないリスクがあります。借地借家法のもとでは1、2ヶ月程度の滞納で退去させることはできず、新しい入居者の募集もできません。実際には家賃を回収できなくても売上としては計上され、入ってこない分はオーナー様の負担としてのしかかります。

入居者信用リスクもアパート経営では注意が必要なリスクです。例えば騒音や近隣トラブルなどを起こす人が入居していることで、長く住んでいて欲しい優良な入居者が出ていってしまうことも考えられます。法的な手続きを取れるかどうかの判断が難しいことも多く、対応が難しいリスクです。

また、アパートも建物である以上、時間の経過とともに老朽化することは避けられません。とはいえ、入居者に心地よく過ごしてもらうため、安全に暮らしてもらうために修繕は行う必要があります。

大規模な修繕をしなければならなくなると、賃貸経営の収支を圧迫する可能性も考えられます。もし、近隣に新しくてきれいなアパートが建てば、管理が行き届いていない物件は選ばれなくなるかもしれません。

以上のように、アパート経営のリスクはゼロではありませんが、しっかりした管理のもとでリスクをきちんと把握して対応すればコントロールが可能です。

租税回避行為と見なされるケースも

先述したように不動産、特にアパートのような賃貸不動産を相続すると、相続税評価額が抑えられます。また、アパートローンを組んでアパートを建てたり、購入した場合、残債があれば債務控除で課税され、遺産総額を減らすことも可能です。

そのため、現金などを相続するよりも不動産を相続するほうが、相続税の負担を抑えられる点では相続対策として有効なことには違いありません。ただし、相続したアパートを売却する場合などは、売るタイミングに注意する必要があります。なぜなら、相続してすぐに売却して現金化すると、国税当局に租税回避行為だと見なされるケースも報告されているからです。

もちろん相続したものの、自分では経営を継続できないという理由で売却を検討する場合もあるでしょう。しかし、意図的に相続税が軽減されるメリットだけを利用したと指摘されれば、国税当局によって否認される可能性があります。相続したアパートの取り扱いについて、判断がつかないことがあれば専門家に相談して対応しましょう。

アパートローンを活用しているときの注意点

アパートローンを組んで賃貸不動産を取得した場合、アパートローンの状況によっては相続時にトラブルに発展することもあるため、確認しておいてください。

アパートローンの残債を確認する

アパートが相続財産に入っている場合は、まずアパートローンの残債があるかどうかの確認が大事です。相続は現金や預貯金、不動産などのプラスの財産だけに限らず、マイナスの財産も対象に含まれます。

相続税の計算では、相続する財産の総額が大事です。アパートローンが残っている場合はマイナスの財産となり、相続人はそれも引き継ぐことになります。マイナスの財産があることで相続税対策になるものの、マイナスの財産が上回っている状況であれば、誰が相続するのかで揉める可能性も高くなります。それでは遺産分割協議にも影響を与えかねません。

また、先述したようにローン契約時、団体信用生命保険(団信)に加入している場合は残債があっても保険金で充当されるため、団信に加入しているかどうかの確認も必要です。アパートローン残債の有無は、後ほど解説するアパートを経営するのか売却するのかの判断にも重要なポイントになります。財産目録を作成するとともに、アパートローンの残債についても必ず確認しましょう。

ローンの連帯保証人がいるか確認する

連帯保証人は主債務者が返済不能に陥ったときなど、主債務者の代わりに債務を返済する義務を負っています。アパートローンの残債がある場合は、連帯保証人を立てているかどうか、それが誰なのかも確認しなければなりません。連帯保証人が法定相続人の場合、アパートの相続は可能です。

アパートローンでは、将来的にアパートを相続する可能性が高い配偶者や子どもなどが連帯保証人になるケースが多くみられます。これは相続放棄によって債務の回収ができなくなることを避け、賃貸不動産が相続人に引き継がれたあとの返済も可能にするためです。

マイナスの財産を相続したくないという相続の面だけをみれば、相続放棄で債務を引き受けない選択肢もあり得ます。しかし、連帯保証人としての保証債務は、相続のように放棄はできません。

2020年の民法改正では公証人による保証意思確認手続きが必要になるなど、個人の保証要件が厳格化されました。そのため、アパートローンを組む際の手続きが煩雑になり、法定相続人に連帯保証人となることを求めないケースも増えています。しかし、民法改正前の契約に関してはそのままであるため、確認が必要です。

アパート経営を継続するか売却するか判断するポイント

もし、相続したアパートの経営が厳しい状況なら、そのまま承継しても負債が増えるだけになりかねません。ここからは経営を続けるのか売却するのかの判断ポイントを解説していきます。

収益計算を詳細に

アパートの経営を続けるうえで、ビジネスとして成り立つかどうかは大切なポイントです。もし、収益が見込めなければ、相続した新オーナーに経済的な負担がかかる可能性も考えられます。まずは細かく収益計算を行い、経営判断の材料にしましょう。被相続人が経営していたときの損益計算書や貸借対照表をはじめ、賃貸経営の状況が把握できる書類が残されている場合は、参考資料とします。

まずは、収入の実績値と満室想定時の家賃収入を把握しておくことが大事です。そのうえで、現在および直近1年程度の空室率がどのように推移しているのかを出してみてください。空室率の状況は、経営を考えるうえで大事なポイントになります。空室率が高くなっているようなら、入居が進まない理由を探り、入居を促進するための対策が必要です。

アパートローンの残債があれば、月々の返済額も把握しておかなければなりません。残債は相続人が支払わなければならないため、家賃収入との比較で返済が可能かどうかを判断する必要があります。そのほか減価償却費やアパートを維持していくために必要な経費、固定資産税などの支出も細かく把握し、収支とのバランスが取れているかどうかの確認が大切です。

立地・周辺環境は魅力的か

アパート経営が軌道に乗るかどうかは、立地や周辺環境にも左右されます。もちろん、立地や周辺環境を十分考慮に入れたうえで入居者を獲得できると判断し、アパートを建築しているはずです。しかし、年数が経つと、アパート周辺の環境が一変することもあります。

例えば、建築当時にはなかった大型商業施設がアクセスしやすい場所にオープンしたり、公共施設が移転してきたりなど、利便性がアップしているかもしれません。バイパスが開通して近くを主要道路が通るようになったのなら、マイカー移動が多い人にとっては便利な立地になるでしょう。

商業施設や公共施設、駅や高速道路のインターチェンジなど、生活に関連が深いスポットの有無でアパートの魅力は違ってきます。

場合によっては、アパートが建築された当時よりも、立地や周辺環境が魅力的になっていることもあり得ます。被相続人の時代には経営が芳しくなかったとしても、環境が良い方向に変化しているのなら、その点をアピールして入居者獲得に活かすことが可能です。

一方で、その逆も考えられ、入居者のニーズを満たさなくなることもあり得ます。アパート経営を継続するのか売却するのかを判断する材料として、あらためて立地や周辺環境、競合物件などを見直してみてください。

相続時には継続が難しくとも、保有物件に魅力を出せるならば、経営改善が可能です。需要があるエリアかどうか、何をいくらで、いつまでに改善するべきかも含め、専門家を交えて判断しましょう。

修繕積立金はあるか

築年数が経過してくると、建物が古くなるのは避けられません。アパートを長く良好な状態で保つためには日々のメンテナンスが大切です。アパートを相続したら、築年数や修繕状況もチェックしましょう。

具体的には外壁塗装や屋上防水などをいつ行ったのか、内部のリフォーム履歴はどうかなどが挙げられます。傷みが酷くなってからでは、修繕も大規模になりがちです。その分、費用もかさむ可能性が高く、収支にも影響が及びます。

メンテナンスの状況を把握しないままでいると、いつ頃どのような工事が必要になるのかも分かりません。思ってもいないタイミングで、突発的な出費がでてくることも予想されます。もし、空室が多い時期に出費がかさんだら、赤字になってしまうこともあり得るでしょう。

加えて修繕積立金があるかどうかも大事なポイントです。長期にわたる修繕計画を立てず、修繕のための費用も積み立てていなければ、仮に損益計算書(P/L)の数字が良かったとしても経営を圧迫する事態に陥るかもしれません。

定期的に必要なメンテナンスを実施していても、築年数が経過すれば、いずれは大規模修繕が必要になります。せっかく相続したアパートを健全に経営するためにも、修繕積立金の有無は大事なポイントです。

入居者トラブルの有無

入居者トラブルもアパート経営に影響を与えるリスクのひとつです。例えば、潜在的な家賃滞納者がいるかどうかを把握しておく必要があります。空室リスクがアパート経営のデメリットになることは先述しましたが、空室でなくても滞納が発生すれば、やはり家賃は入ってきません。

誰でもうっかり支払いを忘れることはあり得ます。そのような場合は、連絡すればすぐに入金してもらえることがほとんどです。家賃を払う気持ちはあっても失業した、急な病気で出費が多くなり、家賃分が捻出できないなど、何らかの理由でお金がないという人もいる可能性があります。

一時的な問題で支払いが遅れているだけなら、改善の余地はあるでしょう。しかし、そもそも払う気がないという悪質なケースもないとはいえず、なかには滞納を繰り返す人もいます。そのような潜在的な家賃滞納者がいないかどうか、滞納があれば期間や合計額、督促の状況、連帯保証人の有無などを確認しておきましょう。

入居者の情報も把握しておくことが大切です。他人に迷惑をかけるような人がいることで、他の入居者や近隣住民との間でトラブルが起こることもあります。リスクになることがあるかどうか、事前に確認しておいてください。

賃貸管理会社を見直す

アパートを健全に運営していくためには、日々の管理が大切です。アパートの管理はオーナー自らが行う自主管理のほかに、管理会社に委託する選択肢もあります。自主管理は管理料などの費用を支払う必要がない点はメリットですが、メンテナンスの手配や入居者トラブルの対処、家賃滞納者への督促など、さまざまな管理業務はすべて自分でしなければなりません。

アパートの管理業務を専業で行える人ならば、自主管理も検討できるでしょう。しかし、本業を持っている人や、遠方在住の人は、実質的に自主管理は難しいのではないでしょうか。特に相続で賃貸不動産を所有することになった場合、突然アパートの管理をしなければならないといっても対処の仕方が分からないことも多いはずです。

被相続人が自主管理を行っていたとしても、そのまま継続する必要はありません。自主管理をやめて賃貸物件を専門に管理している業者に委託するほうが、オーナー様の手間を省きつつ、適切な管理が可能です。

また、もともと管理委託していたケースでも、常に空室が目立っていたり、管理業務に不満やクレームが出ていたりすることもあります。相続を機に、思い切って信頼できる会社に変更することで、改善できることもあります。

まとめ アパートを相続するなら信頼できる賃貸管理会社に相談を

相続したアパートの経営を継続するのか、売却するのかは悩むところです。経営が順調ならば、家賃収入を得られるメリットもあります。しかし、空室リスクが心配になることや、滞納者への督促、トラブルを起こす入居者がいたときの対処など、経営の継続を躊躇してしまうケースもあるかもしれません。

アパート経営を継続するのがメリットになるのか、売却したほうがいいのかは個別の状況によっても異なります。分からないことがある場合は、空室対策や賃貸経営全般の専門的な知識やノウハウを持っり、オーナー目線に近い中立的な視点を持つ賃貸管理会社に相談してみるのがおすすめです。

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この記事を書いた人

秋山領祐(編集長)

秋山領祐(編集長)

【生年月日】昭和55年10月28日。
【出身地】長野県上田市。
【趣味】子供を見守ること。料理。キャンプ。神社仏閣。
【担当・経験】
デジタルマーケティングとリブランディングを担当。
分譲地開発のPMや家業の土地活用などの経験を持つ。
リノベした自宅の縁の下に子ども達の夢が描かれている。