収益物件の相続対策 遺産分割と売却の注意点

2023.01.21

相続は多くの人にとって、人生でそう頻繁には起こらない大きなイベントです。現金や預貯金などに比べると、不動産を相続した場合はさまざまな手続きが必要です。しかも、自宅などではなく、収益物件となる賃貸不動産を相続したとなるとさらに複雑になります。

そこで収益物件を相続したときに困らないよう、注意点を詳しく解説していきます。経営を継続させず、売却する場合に注意するポイントについても解説しますので参考にしてください。

収益物件(収益不動産)とは

収益物件とは何か

収益物件をひとことで表すと、「金銭的な収益を得ることを目的とした物件」です。一般的に収益物件と聞いて思い浮かぶのは賃貸アパートや賃貸マンションなどではないでしょうか。実際に家賃収入を得ているアパートやマンションは、代表的な収益物件です。

街中を見渡してみると、さまざまな建物があり、見た目だけで収益物件かどうか見分けるのは難しいケースもあります。例えば戸建て住宅でも、誰かに貸して家賃収入を得ているのなら収益物件です。

一方で、ビルであっても、収益を得ていないのならば収益物件ではありません。収益物件の対義語は「実需物件」で、マイホームや企業の自社ビルなどが該当します。

建物自体が収益を生まなくても、大手企業などでは都心の一等地に自社ビルを構えることで、信頼度を高めるメリットを得ているケースもあります。一方で、「所有から利用へ」という意識変化もあり、IT関連の企業を中心に自社ビルにはこだわらない企業も増えてきました。

収益物件の種類

収益物件とひとくちにいっても、多くの種類があります。主なものでは居住用不動産やオフィスビル、商業施設やその他の物件が挙げられます。収益物件の種類をさらに細かく見ていきましょう。相続に収益物件が含まれているなら、特徴を把握しておくことも必要です。

居住用不動産(賃貸マンション・賃貸アパートなど)

収益物件としてもっとも一般的なのは、アパートやマンションに代表される居住用不動産です。相続する可能性が高い収益物件として想定されるのは、賃貸物件として貸し出しをしているこの居住用不動産でしょう。居住用不動産は市場に出回っている物件数が多く、種類も幅広いことが特徴です。

具体的には被相続人がアパートやマンションを一棟ごと所有しているケースもあれば、区分マンションを一室だけ所有しているケースもあります。アパートやマンションのような共同住宅に限らず、戸建て住宅を賃貸物件として貸し出すケースも収益物件の対象です。近年では複数人が共同で暮らすシェアハウスなども増えています。

収益物件としての居住用不動産には単身者向けやファミリー向けなど、さまざまなタイプがありますが、基本的には個人が対象となる物件です。立地などが良ければ需要は高く、後述するオフィスビルや商業施設に比べると家賃の増減は少なく、景気動向に左右されにくいというのも特徴といえます。

オフィスビル

オフィスビルは企業が事務所などの用途で賃借する不動産物件です。居住用不動産と同様に、オーナーがビル一棟すべてを所有している場合も、オフィスビルを複数の人で所有している場合もあります。

都市部では規模の大きいオフィスビルも多く、一棟を丸ごと所有するためには多額の資金が必要です。しかし、1区分の所有だけなら居住用不動産と同程度の感覚で不動産投資ができるため、相続財産に含まれていることもあるでしょう。オフィスビルということもあり、入居者は個人ではなく、法人が一般的です。

企業が業務を行う拠点として借りることから、アクセス良好な場所にあるなど、立地に恵まれた物件も少なくありません。

近年では、働き方改革や新型コロナの流行などにより、リモートワークを推進する企業も増えています。景気の影響も受けやすく、オフィスを縮小したり閉じたりする企業が増えれば需要が少なくなるリスクもあります。

また、オフィスの賃料は景気動向に敏感に反応するので、入居者様から賃料減額請求を受けたり、逆にオーナー様から賃料増額請求を行ったりすることがあります。

商業施設・その他

商業施設は、商品やサービスを提供する商業系の収益物件です。デパートやスーパーマーケット、ホームセンターなどの大型商業施設はもちろん、飲食店やコンビニエンスストアなどの小規模店舗などもあり、同じ商業施設といっても種類は多岐にわたります。

商業施設のほかにもホテルや物流関連の倉庫、コインパーキングなどの駐車場なども収益を得られる不動産の投資対象として挙げられます。商業施設やその他の収益物件も、契約はオフィスビルと同様に法人であることが多く、賃料相場は居住用不動産に比べて高めの設定です。

そのため、一度借り手がつくと高い賃料収入が期待できるものの、経営状況が悪化すると早期に撤退する可能性もあります。また、商業施設は、種類によって求められる仕様や設備が異なったり、求められる立地も異なります。前のテナントが撤退した後に、次のテナントを探しにくいところが難点です。

収益物件の家賃は相続財産となるか

収益物件であっても土地や建物自体は、不動産としての相続財産であることに違いはありません。ただ、収益物件はマイホームなどとは異なり、毎月、家賃という継続する収入(インカムゲイン)を生みます。この家賃はどのように扱えばいいのでしょうか。

家賃が相続財産になるかは手続きの時期によって変わる

被相続人が亡くなると、残された相続人たちの生活が一変することもあるでしょう。葬儀など目の前のやらなければならないことに追われ、当初は相続のことまで考えが及ばないかもしれません。しかし、相続財産に収益物件が含まれているのなら、適切に対処する必要があります。

相続が発生する、発生しないにかかわらず毎月家賃は発生し、遺産分割協議を行っている間にも物件に入居している人や企業、テナントは家賃を支払い続けます。その家賃が誰のところに入るのか、相続財産として扱われるのかなど、はっきり分からない人もいるのではないでしょうか。家賃が相続財産として扱われるのかどうかで、遺産分割も違ってくるはずです。

家賃(賃料債権)が相続財産になるのかどうかは、時期によって変わります。その時期とは「相続開始前」と「相続開始後から遺産分割成立前」および「遺産分割成立後」の3つです。次からは3つの時期に分け、相続における家賃の取り扱いについて解説していきます。

相続開始前の家賃

被相続人が遺した財産のなかに収益物件がある場合は、毎月発生する家賃の取り扱いに注意しなければなりません。自宅などの実需物件なら、相続開始前から遺産分割協議中にかけて特に収益が発生することはないため、誰が相続するのかを決めて手続きするだけです。

しかし、収益物件では不動産そのものが存在するだけではなく、そこから家賃という収益も生まれ続けます。相続開始前後に発生する家賃の取り扱いが難しくなっているのはそのためです。

そのなかでも、相続開始前の家賃の取り扱いはシンプルです。そもそも物件の所有者は被相続人であり、まだ相続が開始していなければ、当然入ってくる家賃は被相続人に属する財産であるとみなされます。

実務的な面から考えても、相続開始前の家賃は被相続人の口座などに振り込まれているでしょう。被相続人のものであることは明らかであるため、相続財産として扱われます。相続人が複数いれば、相続財産として遺産分割協議の対象です。

相続開始後から遺産分割協議成立前の家賃

相続開始から遺産分割協議成立前までの間に発生した家賃については、誰のものになるのか以前から論争がありました。争点は遺産分割で収益物件を相続した人の分になるのか、家賃を遺産とは別と考えて複数の相続人が法定相続分の割合で取得するのかです。

この問題は、2015年9月8日の最高裁判決で確定しました。この判例では多数の収益不動産を所有していた被相続人が亡くなったことを受け、相続人の後妻と先妻の子どもたちで遺産分割協議が成立する前の家賃収入の取り分が争われています。

結果的には相続開始後、遺産分割協議が成立するまでの間に発生した収益物件の家賃は遺産分割とは別であり、各相続人が法定相続分の割合に応じて取得するという判断が下されました。

複数の相続人がいる場合、遺産分割協議が成立するまでの間は共有の状態であることを前提に取り分が決まるということです。後に収益物件を相続する人が確定しても、この間の家賃収入分は影響を受けません。なお、相続人全員の合意があれば、遺産分割の対象とすることも可能です。

ちなみに収益物件を所有していると家賃収入だけではなく、管理費や修繕費なども発生します。債務に関しても、相続開始から遺産分割協議成立までの間は法定相続分の割合に応じて相続すると判断されています。

出典:判例 最高裁判所「裁判例結果詳細」

遺産分割協議成立後の家賃

遺産分割協議成立後の家賃についても、遺産分割がすでに確定しているため、相続開始前と同様に明らかです。家賃収入は収益物件を相続することになった人が得ることになり、相続財産には含まれません。管理費や修繕費などの費用も、相続人が負担することになります。もし、収益物件を複数の相続人が共有することに決まった場合、各相続人が受け取る家賃収入は持ち分に応じた割合です。

相続した収益物件で得た不動産所得は、毎年確定申告を行わなければなりません。確定申告はひとつの物件でまとめて行うのではなく、各自で申告をしなければならない点は注意しておきましょう。

また、相続によって収益物件を取得したときは、名義が被相続人から相続人に変わった相続登記(所有権移転登記)も行う必要があります。所有権移転登記を済ませていないと、のちのちトラブルになることも予想されます。収益物件の所有者として入居者に対して家賃を請求することも困難になるため、登記の手続きは遺産分割協議が成立したら早めに済ませておくことが大事です。

相続した収益物件を売却する際の注意点

収益物件を相続しても、必ず賃貸経営が続けられるとは限りません。選択肢としては売却もあり得ます。しかし、相続した収益物件の売却には注意しなければならないポイントがあります。以下の4点を特に確認しておいてください。

賃貸経営継続か売却かの判断は専門家の意見を聞いてから

相続した賃貸アパートなどの収益物件の経営を継続するのか、売却するのかはさまざまな事柄を比較検討したうえで判断しなければなりません。収益物件を所有していれば、家賃収入という長期的かつ安定した収入を得られます。

もし、病気や怪我などで本業での収入が減少したとしても、家賃収入があれば生活に困らずに済むでしょう。資産として残したり、老後の蓄えとして備えておいたりすることも可能です。

一方で、収益物件の経営には空室リスクや家賃滞納リスク、入居者トラブルによるリスクなど、デメリットになる部分もあります。築年数が経過すると老朽化によって、リフォームや大規模修繕にかかる費用も必要です。

メリットとデメリットを比較衡量したうえで、メリットの方が勝ると評価するのなら、経営を継続するのもいいでしょう。しかし、収益が見込めないのならば、売却したほうがいい場合もあります。

ただし、収益物件の相続や売却は、被相続人が自宅として使っていた実需物件とは勝手が違います。売却を視野に入れているのなら、実際に収益物件の運営や売却に詳しい賃貸管理会社に相談するのがおすすめです。賃貸経営の詳細な収支計算を行ってくれたり、今後の見通しを判断するための材料を示してくれます。

売却のアドバイスを受けられるのはもちろん、場合によっては買取まで対応可能な会社もあります。事前に買取価格を把握しておくことで、売却時の心理的負担を軽減できるため、相談先は吟味することをおすすめいたします。

相続税の取得費加算の特例(要件・期限に注意)

不動産を売却して譲渡所得(譲渡益)が出れば、譲渡所得税を納めなければなりません。譲渡所得は不動産を売却して得た収入金額から、取得費や譲渡費用を差し引いた金額です。

相続によって取得した不動産を売却したケースでは、「相続税の取得費加算の特例」が設けられています。この特例では、相続後3年10ヶ月以内に相続財産を売却した場合、相続税額の一部も取得費として加算することが可能です。

つまり、収入金額から取得費や譲渡費用に加え、相続税の取得費加算分も差し引けるため、その分だけ譲渡所得が少なくなります。結果的に、譲渡所得にかかる税金も軽減されるのです。

ただし、この特例の適用を受けるためには以下の3つの条件を満たしている必要があります。

1つ目は相続または遺贈によって不動産を取得していること、2つ目は取得した人に相続税が課されていることです。3つ目は相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後、3年を経過するまでに譲渡していることとされ、通常10ヶ月の相続税申告期限とその後の3年を加えた3年10ヶ月の間に売却を済ませることがポイントになります。

立地などの条件が良好な物件なら、スムーズに売却できるかもしれません。ただ、すぐに買い手が出てこなければ、期限の3年10ヶ月に間に合わない可能性もあります。売却の手続きにも時間を要するため、この制度を利用したいのなら、早めに対応する必要があります。

収益物件の所有期間を確認する

不動産を売却した際の譲渡所得にかけられる譲渡所得税の税率には、物件の所有者の所有期間による違いもあります。つまり、不動産を売却するタイミングによって、税金を差し引いた後に手元に残る金額が違ってくるということです。

物件の所有期間が5年を超えると「長期譲渡所得」、5年以下なら「短期譲渡所得」となります。長期譲渡所得の税率は所得税が15%、住民税が5%の合計20%が基本です。ただし、2037年(令和19年)までは復興特別所得税として所得税に2.1%上乗せされているため、15%×2.1%=0.315%が加わり、合計で20.315%になっています。

短期譲渡所得の税率は所得税30%、住民税9%の合計39%が基本ですが、2037年までは長期譲渡所得と同様に復興特別所得税(30%×2.1%=0.63%)が上乗せされて39.63%です。

以上のように、物件の所有期間が5年以上と5年以下では、かかる税金に倍近くの差が出ます。不動産を売却する際は、所有者(相続人)の所有期間を確認することも大切です。なお、相続で得た物件の場合、所有期間は前の所有者(被相続人)が所有していた期間も合算できます。

共有名義はトラブルのもと・売却には共有者名全員の同意が必要

収益物件を遺産分割によって共有分割とした場合、売却するにはハードルが上がります。共有者がいる物件は、単独で売却することができないからです。実際に売却手続きを進めようと思えば、共有者全員の同意が必要になります。書類上も共有者全員の署名と実印の押印などがなければ、売却の契約もできません。

相続が発生した当初は被相続人の子どもたちが共同で相続し、力を合わせて収益物件の経営を継続しようと一致団結することもあるでしょう。しかし、時間が経てば経営の状況が変わってきたり、共有者それぞれの考え方にズレが生じてきたりすることもあります。

収益物件は所有していると固定資産税や建物の維持費などもかかり、その費用が負担になってくることもあり得ます。特に築年数の経過している物件などは、空室リスクなども増えていくことが考えられ、適切な対策ができていなければ、所有していることにメリットを感じない人が出てくることもあるでしょう。

共有分割するのがベストだと考えていても、状況が変わることは珍しくありません。そのようなときに売却する、しないで意見が分かれ、仲が良かったはずの兄弟の間で紛争の原因となることもあります。あとになって紛争に発展させないためにも、共有分割している場合は要注意です。

まとめ 収益物件の相続の際は信頼できる賃貸管理会社に相談しよう

収益物件の相続は相続手続きの問題はもちろん、相続税の問題や賃貸経営の問題、遺産分割にまつわる問題など、さまざまな要因が絡まって複雑になりがちです。当人たちだけでは対応が難しい内容も多く、特に相続では相続人同士の争いも招きかねません。そうならないためには、賃貸経営に詳しい専門家に相談する必要があります。

【リロの不動産・リロの賃貸・リロの売買】は管理戸数・仲介数ともに日本有数の実績です。収益物件に関しても購入から運用・賃貸管理、工事、売却や相続まで、一気通貫で対応できる体制を整えています。

賃貸経営をトータルでサポートし、オーナー様の立場で考えて伴走しております。収益物件を所有し、相続問題についてじっくりお考えの場合は、どの様なことでもお気軽に、リロの不動産へお問い合わせください。

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この記事を書いた人

秋山領祐(編集長)

秋山領祐(編集長)

【生年月日】昭和55年10月28日。
【出身地】長野県上田市。
【趣味】子供を見守ること。料理。キャンプ。神社仏閣。
【担当・経験】
デジタルマーケティングとリブランディングを担当。
分譲地開発のPMや家業の土地活用などの経験を持つ。
リノベした自宅の縁の下に子ども達の夢が描かれている。