不動産物件を相続するときの手続きとは? 相続税を払えない場合はどうする?

2023.01.20

賃貸アパートやマンションなどの収益物件を相続すると、通常の遺産相続と比べて高額の相続税を課税される可能性があります。せっかく収益物件を相続しても、相続税が払えなくて困っている、といった方も少なくないでしょう。

この記事では、不動産の収益物件を相続した際に知っておくべきことや手続きの流れ、遺産分割での注意点、相続税を支払えない場合の対処法などについてわかりやすく解説します。

収益物件を相続する際に必要となる手続き

賃貸アパート・マンションなどの収益物件を相続するときは、一般的な不動産を相続する手続きに加えて、収益物件特有の手順が必要とされます。相続後の経営判断にも大きくかかわってきますので、大まかな手続きの流れについて最初におさえておきましょう。

なお、一般的な不動産の相続の大まかな流れとしては、以下のようになります。

1.遺言書を確認する
2.相続人を確定する
3.相続財産を特定する
4.遺産分割協議を行う
5.相続登記を行う
6.相続税の申告・納税を行う

詳しくは、こちらの記事を参照ください。

不動産相続の流れと必要経費 遺産分割の方法と注意点も解説

借入金の残債を確認する

収益物件を相続したら、その物件に関してどれくらいの債務が残っているかを早めに把握しましょう。収益物件の相続では、物件と合わせてローン残債などの債務の返済そのものも引き継ぎます。賃貸経営の収支状況を把握することで、収益不動産の将来性や債務の返済状況が分かりますので、賃貸経営を引き継ぐかどうかを判断しやすくなるはずです。

相続の方法には、被相続人(亡くなった方)の遺産を全て放棄する「相続放棄」、すべての財産を相続する「単純承認」、そしてプラス財産の範囲でのみ債務も相続する「限定承認」の3つの方法があります。相続不動産の収支状況、ローン残債の状況などから、最適な方法を選択することが大切です。

また、ローン残債などのマイナス資産は「相続税評価額」全体から差し引くことができる「債務控除」の対象となります。プラスの収益を見込める不動産であれば、今あるローン残債分を債務控除として利用し、賃貸経営を引き継ぐのも1つの選択です。

ただし、被相続人が団体信用生命保険(団信)に加入している場合は、被相続人の死亡時にローン返済が免除されています。その場合は債務控除を利用できないことに注意してください。

借入金の連帯保証人がいるか確認する

ローン残債のある収益不動産を相続する際には、「連帯保証人」が誰になっているかを必ず確認しましょう。アパートローンなどの収益不動産向けの融資では、法定相続人や事業承継の見込みのある方を連帯保証人に立てることがほとんどです。

金融機関は事業の継続性を重視していますので、被相続人が亡くなっても誰かが事業を引き継げるように、奥様やお子様など、お身内の方を連帯保証人にするよう求められる傾向があります。

連帯保証人は、主債務者と同等の返済義務を負います。法定相続人としての地位だけであれば相続放棄などを選択して債務放棄することが可能ですが、連帯保証人は保証債務を放棄できません。

もし法定相続人でかつ連帯保証人だった場合、ローン残債から逃れるためには収益物件をそのまま相続して経営を続ける、あるいは物件を売却して債務返済にあてる、といった方法を選ぶ必要があります。遺産分割協議やアパート経営の承継にも大きく影響することですので、財務状況の把握とともに、連帯保証人が誰かも早めに把握しておきましょう。

相続登記後、賃貸経営を継続するか判断する

賃貸アパートなどの収益物件を相続する場合、相続登記などの法的な手続きを済ませた後、そのまま賃貸経営を継続するかどうかをあらためて判断します。大まかな手順は次のとおりです。

収益計算を詳細に行う

アパート経営を引き継ぐ場合、まずは収益計算を細かく行って経営判断材料を得る必要があります。収入の実績値や満室想定時の家賃収入、想定される空室率、さらに月々のローン返済額や減価償却費、必要経費の内訳、設備投資や修繕計画の実情、固定資産税などの租税公課など、すべてを計算し、収支計画書とキャッシュフロー表を作成しましょう。

相続によっていきなり賃貸経営者となるケースでは、分からないことの連続かもしれません。しかし、アパート経営を成功させるためには、財務状態の現状を数値化し、正確に経営状態を把握することが不可欠です。最低限の知識を身につけたうえで、パートナーとなる賃貸管理会社とも相談しながら、できるだけ正確な収益計算をご自分でやってみましょう。

立地・周辺環境は魅力的か見極める

相続した収益不動産の収支状況がかんばしくないケースであっても、経営改善によって見事に軌道修正できる可能性があります。特に立地や周辺環境などの条件が良ければ、戦略次第で大幅に収支が改善することも少なくありません。

しかし、相続したアパートが今後黒字の見込みがあるかどうか判断するには、立地条件だけでなく、建物やお部屋の状態、その地域でニーズのある間取りの種類、周囲の競合物件の状況なども含めて、多角的に検討する必要があります。

専門的な見解も必要となるので、賃貸経営の運用実績が豊富なデータを蓄積する賃貸管理会社などと協力して戦略を考えると、地域性も踏まえたリアリティのある判断がしやすいでしょう。

具体的にどのような点に着目すべきかについては、こちらの記事でもより詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。

空室の原因を改善する「4つの空室対策」と「15のアイデア」

賃貸管理会社を変更する

経営状況の改善という点では、収益不動産の管理体制を見直すのもおすすめです。特に自主管理で経営していた場合は、サポート体制のしっかりした賃貸管理会社に管理委託することで、費用対効果が飛躍的に向上する可能性があります。

また、現状の賃貸管理会社に不満があるようなら、別の会社に変更することも選択肢の1つです。賃貸管理会社の中には、サポート状況が万全でなかったり、客付けなどのリーシング対策が不得意な会社も少なからず存在します。

アパート経営にまだ慣れない段階のオーナー様ほど、しっかりとしたノウハウとサポートが大切。信頼できる会社をパートナーとして選ぶことは、今後の経営状況に大きく影響する大事な判断となります。

遺産分割する際の注意点

相続人が複数いる場合、必ずしも法定相続分で遺産を分配するとはかぎりません。特に賃貸アパートなどの大きな資産が存在するケースでは、経営の引継ぎも含めて「遺産分割協議」によって細かく相続分を決めていくことになります。そこで、収益不動産を遺産分割する場合に気をつけるべき注意点について解説しましょう。

収益物件の共有はトラブルのもと

収益物件を複数の相続人で共有し、運営することはできます。しかし、不動産の共有は経費の分担や家賃収入の分配方法、賃貸経営に関する意思決定や管理方法などをめぐって共有者同士の意見が一致せず、トラブルのもとになりやすいです。

不動産の共有とは、「対象となる不動産の所有権を共同して所有する権利」のこと。不動産の処分に関する意思決定も共有者全員で行うことになるため、1人の共有者が勝手に財産を処分することができません。具体的に、共有での意思決定には以下のような決まりがあります。

不動産共有での意思決定

・不動産の売却は共有者全員の同意が必要(共有物の変更・処分)
・不動産の管理行為(利用方法の変更・改良行為など)は、各共有者の持ち分価格の過半数で決定

相続時に共有した不動産については、採算が取れない、相続税の支払いが厳しいといった理由で売却するケースも考えられます。しかし、共有状態だと単独の相続人の判断では売却できません。さらに管理行為には賃貸借契約の締結や解除など、賃貸経営に欠かせない行為も単独で決められないため、共有者同士の意思疎通がスムーズにできないケースでは経営自体ができなくなる恐れもあります。

現物分割・代償分割・換価分割

遺産分割手続きでは、相続人がどの財産を相続するかを決めるための3つの分配方法が定められています。その方法とは「現物分割」「代償分割」「換価分割」の3つです。

現物分割

文字どおり、土地と建物のような特定の「現物」を、特定の相続人が相続するように分配する方法です。被相続人(亡くなった方)の自宅は奥様に、Aアパートは長男、Bアパートは次男、といったかたちで遺産分割します。物件ごとに所有権の所在がわかりやすくなるため、遺産分割では採用されることが多いです。

代償分割(代物分割)

代償分割は、別名「代物分割」ともいいます。例えば遺産がAアパートだけで、長男がアパート経営を引き継ぐためにAアパートを引き継いだとしましょう。ほかの相続人が奥様と次男の2人だったとすると、後者の2人に承継される相続分がありません。

そこで、長男がAアパートを相続するかわりに、2人の相続分に見合った金額を金銭などで支払います。これが代償分割です。相続財産の分配での不公平感を防ぐために採用されます。

換価分割

換価分割とは、不動産などの相続財産を売却して得たお金を、相続人同士で分配する、という方法です。残された不動産の処分に困っている、あるいは相続人同士が疎遠で意思疎通が難しく共有状態を維持しにくい、といったケースで採用されます。

このように、相続人の事情や相続財産の状況に合わせて、柔軟に遺産分割する方法が用意されています。いずれの方法を選択するか相続人同士でよく話し合い、のちのちトラブルにつながらないように最善の方法を模索することが不可欠です。

遺産分割協議中の家賃収入

遺産分割協議中の間も収益不動産からは家賃収入が入ってきますが、その分配をめぐってもトラブルが起こりやすいです。遺産分割が決まるまでの家賃収入は、被相続人の「遺言」内容次第で分配方法が大きく変わります。

遺言書ありの場合

遺言書に家賃収入の分配についての内容がある場合は、その内容での分配方法になります。遺言書の内容は亡くなった方の意思とみなされるので、どのような方法であれ最優先です。

遺言書なしの場合

遺言書がない場合は、遺産分割協議が決定するまでの間は法定相続分で分け合うのが一般的です。もし遺産分割協議後に特定の相続人1人への相続が決まったとしても、協議成立までにほかの相続人が受け取った家賃収入は返還する必要はありません。

注意点として、遺産分割協議までに受け取った家賃収入は個人所得になる点があります。賃貸アパートを相続しないと決まった場合でも、受け取った家賃収入分の申告が必要になりますので、納税手続きの段取りを忘れないようにしましょう。

相続税を支払えない場合の対処方法

相続税の支払いは、相続を知った日の翌日から10ヶ月までに現金で一括支払いが原則。特に「現金支払い」という点がポイントです。準備なしに不動産のような大きな財産を相続してしまうと手元に現金がなく、相続税を支払えないという事態も少なくないようです。

そこで、万が一相続税を支払うための現金がない場合、どのような対処法があるかについて解説します。

延納する

相続税を現金一括で期日までに納付できない場合、払えない金額分を分割で支払う「延納」の制度を利用できます。ただし、相続税の延納には要件が定められているので、利用の際には要件を満たすかどうかの確認が必要です。

相続税の延納制度の要件は以下のとおりです。

①相続税額が10万円を超えていること
②金銭で納付することが困難な理由があり、その金額の範囲内であること
③「延納申請書」及び「担保提供関係書類」を申告期限までに提出すること
④延納税額に相当する担保を提供すること(ただし、延納税額が 100 万円以下で、かつ延納期間が3年以下の場合は担保提供の必要なし)

延納期間は5年から最長20年となっています。担保としては国債や地方債、社債など、確実性のある有価証券や土地・建物などが認められます。無理のない範囲で徐々に支払いを進めることができるので、支払いの負担を軽減できる点は大きなメリットです。

その一方で、延納期間の支払いには利息扱いとなる「延納利子税」が追加されます。いわばローンの貸付とよく似た制度なので、結果的に本来の相続税よりも高い金額を支払うことになる点に注意が必要です。

出典:国税庁 相続税の延納

物納する

延納でも支払いが厳しい場合は、相続財産である不動産や株式など、現金以外の「モノ」で相続税を治める制度があります。これを「物納」制度といいます。ただし、物納制度で納めることのできる財産は相続財産に限られます。もとから相続人が所有している財産での物納ができない、ということです。物納制度に関しても、以下の指定された要件を満たす必要があります。

①延納によっても金銭で納付することが困難であること
②物納にあてる財産を申請すること
③申告期限(10ヶ月以内)までに「物納申請書」を提出すること

物納は手元に現金がなく、延納要件を満たせない場合であっても確実に納税できる点が大きなメリットです。しかし、物納できる相続財産の種類や優先順位が決まっているため、相続人自ら物納する財産を選択することはできません。

さらに、不動産を物納する際には該当する財産を相続税評価額ベースで計算します。一般的な不動産の相続税評価額は時価の50~70%程度ですので、市場価格で売却することと比較するとかなりの損です。相続税評価額が高い物件であれば、売却によって得た資金で税金を支払う方法をおすすめします。

出典:国税庁 相続税の物納

不動産を売却して税金を支払う

相続した物件の資産価値が高い場合は、相続後に売却して現金化することで相続税の支払いにあてる方法がおすすめです。相続税評価額で評価される物納と比べて、時価での売却が可能となるため、手元に入る金額が増えます。さらに通常の不動産の売却では「譲渡所得税」が課税されますが、相続不動産の売却では譲渡所得税の軽減特例が適用されるため(ただし相続開始後3年以内)、節税効果も高いです。

しかし、デメリット面も少なからず存在します。まず通常の売却と同じく買い手を見つけるのはなかなかの一苦労。もし買い手が見つからなければ納税期限が迫ってしまい、相続税の支払いのために、ほかの資金調達方法を考える必要があります。相続税の申告期限は相続を知った日の翌日から10ヶ月ですので、この期間内に売却手続きを全て済ませるのは、かなり高いハードルです。

また、売却前に遺産分割協議を済ませなければならず、相続手続き自体もかなりスピーディーに行わなければなりません。相続物件が共有分割状態にあると、売却を決定するには共有者全員の同意が必要となり、手続きが遅れがちとなる可能性もあります。

例えば、不動産会社に「買取」をしてもらうことで、現金化のスピードを高める方法もあります。売却をご検討の際は、買取価格をあらかじめ把握したうえで、余裕をもって時価の売却を進めると、売却遅延によるリスクを解決できるでしょう。

金融機関から融資を受ける

納付期限までに何らかの事情で相続税が払えず、相続財産の扱いがまだ定まらない場合、金融機関から融資を受けて相続税を支払うという方法も選択肢の1つです。相続税支払い専用のローンが各金融機関で用意されています。

よく似た支払方法に、先ほど説明した「延納」があります。延納は実質的にローンの支払いと似ていると説明しましたが、延納で発生する「延納利子税」よりも金融機関のローンのほうが金利は低いです。したがって、延納を選ぶよりも金融機関から借り入れたほうが結果的にお得といえます。

しかし、金融機関からの借入れという点では、住宅ローンや教育ローンといった一般的なローンと同じです。場合によっては数百万から数千万規模の融資となることもあるので、金融機関の審査や担保の提供を求められることになります。審査自体も厳しく、審査期間が長引くことも多いため、納付期限までに融資を取り付けられるかは不透明です。

各金融機関ごとに審査基準も違っていますから、確実に借入れを実現するためには周到な準備が必要となるでしょう。

相続放棄を行う

これまでにご紹介したようなあらゆる方策を検討してもなお相続税の支払いが難しい場合は、最終手段として「相続放棄」という方法があります。相続放棄とは被相続人の財産の一切を相続しない法律行為のことで、家庭裁判所での手続きが必要です。相続を知ったときから3ヶ月以内という期間制限があり、一度相続放棄を選ぶと撤回することができません。

相続予定の不動産の収益性、将来性がとぼしいうえに巨額のローン残債まであって、このままでは大きな借金を背負うことになりそうといったケースでは、相続放棄は有力な選択肢の1つです。ただし、相続放棄をするとローン残債や借金などのマイナス資産だけでなく、プラスの財産の承継も一切放棄することになります。

また、相続放棄を選択すると、次の相続順位の方に相続人の権利が移るなど、相続関係にも大きく影響します。相続放棄を検討せざるをえないような相続財産を承継したい方はあまりいないため、関係する親族と十分に協議せずに相続放棄を選ぶと、のちのち親族間でのトラブルに発展する可能性も高いでしょう。いずれにせよ、相続放棄を選ぶかどうかについては慎重に判断する必要があります。

まとめ 収益物件の相続は専門家への相談が必要

相続では大きな財産が動くことが多いため、遺産分割協議や相続税の支払いなど、たくさんの手続きをクリアしなければなりません。特に賃貸アパートなどの収益物件の相続では、賃貸経営の承継も含めてかなり複雑な状況になります。弁護士や税理士、司法書士といった専門家だけでなく、賃貸経営そのものに詳しいプロフェッショナルのアドバイスも不可欠となるでしょう。

【リロの不動産】は一般物件と収益物件を問わず、日本有数の管理戸数・仲介戸数を誇り、相続への対応実績も豊富です。これまで数多くのオーナー様の賃貸経営をサポートしてきましたので、相続対策、節税対策に関しても万全の体制で臨んでおります。

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この記事を書いた人

秋山領祐(編集長)

秋山領祐(編集長)

【生年月日】昭和55年10月28日。
【出身地】長野県上田市。
【趣味】子供を見守ること。料理。キャンプ。神社仏閣。
【担当・経験】
デジタルマーケティングとリブランディングを担当。
分譲地開発のPMや家業の土地活用などの経験を持つ。
リノベした自宅の縁の下に子ども達の夢が描かれている。