相続税を抑える決め手は?不動産評価制度の仕組みと注意点を解説
2023.01.19資産家にとって、相続税の負担は頭を悩ませる問題です。一方、相続税対策として不動産の活用が効果的であるとも聞きます。実際に不動産は相続税対策として有効なのでしょうか。
今回は、不動産の評価方法の仕組みを解説するとともに、収益不動産である賃貸物件が相続対策に有効なのか、収益不動産で相続税対策を行う場合のメリットやデメリットについても合わせて紹介します。
目次
不動産の相続税評価額が低い理由
不動産は相続税対策に有効といわれていますが、それは一体なぜなのでしょうか。相続税対策に有効といわれる仕組みについて解説します。
相続財産の評価額が圧縮される
相続税額を求める際には、相続財産の相続税評価額を用いて計算します。相続税評価額は、現金や預貯金、株式・投資信託などの有価証券や金融資産については時価100%の額が適用されますが、不動産の場合は異なります。不動産は時価が評価額としてそのまま適用されず、相続税課税評価額を圧縮することができるのです。
相続税評価額の計算方法
不動産の相続税評価額はどのようにして計算されるのでしょうか。計算方法のルールについて、以下見ていきましょう。不動産の相続税評価額の計算は、土地部分と建物部分で異なります。
土地部分の相続税評価額
土地の評価方法には、「路線価方式」と「倍率方式」があります。
路線価方式とは、毎年国税庁が作成する「路線価図・評価倍率表」に基づき土地の価格を評価するもので、路線価が定められている地域で用いられる評価方式です。「路線価図・評価倍率表」は毎年1月1日を基準として作成され、毎年7月に公表されます。
倍率方式とは、路線価が定められていない地域で用いられる評価方式で、固定資産税評価額に地域によって異なる一定の倍率を乗じて求められます。
路線価方式、倍率方式ともに、公示地価の80%程度の額になる点が特徴です。
小規模宅地等の特例
土地の相続税評価において、効果が大きいといわれているのが「小規模宅地等の特例」です。
小規模宅地等の特例とは、被相続人の居住用もしくは事業用の土地のうち、一定の利用区分に該当し、要件を満たす場合に、限度面積までの部分について最大80%まで相続税の課税評価額が減額されるというものです。表のように、居住用であれば、330平方メートルまでなら80%減額され、賃貸不動産の場合は、200平方メートルまでが50%減額されます。
利用区分 | 要件 | 限度面積 | 減額割合 |
居住用 | 特定居住用宅地 | 330m2 | 80% |
事業用(貸付) | 貸付事業用宅地 | 200m2 | 50% |
ただし、貸付事業用宅地については、相続開始前3年以内に新たに事業として貸し付けを始めたもの(3年以内貸宅地)については特例の適用対象外となる点に注意が必要です。
建物部分の相続税評価額
建物部分の相続税評価額は、その建物の固定資産税評価額をそのまま用います。建物部分の固定資産税評価においては、再建築価格にその家屋の建設後の経過年数に応じてさだめられた原点補正率を乗じて求められます。そのため、建物の固定資産税評価額は、実際の建築費の50~70%程度になるケースが多くみられます。
固定資産税は毎年納めているものなので、固定資産税評価額を知りたい場合は、最新の固定資産税の納税通知書を確認すれば分かります。もし、納税通知書が見当たらない場合は、市町村の窓口に問い合わせることで確認できます。(東京都23区の場合は、直接、都にお問いあ合わせください。)
土地の価格は5種類ある
土地の相続税評価額が圧縮される理由は、相続税評価に用いられる価格が実勢価格である時価ではなく、路線価で求められるからです。土地の価格は以下のとおり5種類あり、このことを「1物5価」といいます。
現在、日本で土地の価格が5つも存在するのは、国や地方自治体のほか、売買取引における当時者がそれぞれ違った視点から評価しているからだといわれています。
実勢価格(時価)
実勢価格は時価ともいわれ、不動産売買などの当事者間において、対象の土地が実際に取引され、成立する価格をいいます。実勢価格には、売る方や買う方の状況や市場の動きによって価格に差が出るという特徴があります。
実際にその価格で契約が成立した場合、それが実勢価格になりますが、取引が行われない場合は過去の取引事例や以下で紹介する公的価格から推定することになります。
また、実勢価格は公示価格の1.1倍程度になるケースが多くみられます。
公示価格(公示地価)
公示価格とは、地価公示法に基づき国土交通省の土地鑑定委員会が毎年1月1日を基準日として決定し、3月に発表される不動産の評価額で公示地価と呼ばれることもあります。土地の取引における公の指標になるため、売買などを行う際の目安として利用されています。
地価公示では、土地の用途を「住宅地」「商業地」「工業地」などに分類して発表します。地価を調査する地点を「標準地」と呼びますが、2022年段階で標準地は全国に2万6,000ヶ所あります。
基準地価(基準地標準価格)
基準地価とは、各都道府県が主体となって公表する土地の標準価格です。前述の公示地価を補完するために発表するもので、「基準地標準価格」と呼ばれています。公示地価が1月1日を基準として作成し、3月に発表されるのに対し、基準地価は毎年7月1日を基準として作成され、毎年9月中旬頃に発表されます。そのため、同じ土地でも半年後にどのくらい変動したかを把握することもできます。
路線価
路線価とは、国税庁が定める相続税や贈与税の目安となる土地の価格です。毎年1月1日を基準として作成され、7月頃に発表されます。相続税や贈与税の目安として利用されることから、土地の相続税評価額とされます。この相続税評価額は、公示価格の80%程度が相場となっています。
路線価が公示価格の80%になる理由は、評価が年に1回しか行われないことから、その間の地価変動によって発生する納税者同士の不公平感をなくすためだといわれています。
固定資産税評価額
固定資産税評価額とは、各市町村が定める固定資産税の基準となる評価額のことです。各市町村が決定しますが、東京23区については東京都が決定します。また、固定資産税評価額は、固定資産税だけでなく、都市計画税や不動産取得税、さらには登録免許税を算定する基準として利用されています。
固定資産税評価額は3年に1度評価替えを行い、基準年度の4月に公表されます。相場は公示価格の70%となっています。これも、3年に1度しか評価が行われないことに対する納税者同士の不公平感をなくすための措置となっています。
賃貸マンションなどの収益不動産はさらに相続税を節税できる
相続時の資産を不動産に変えることで、相続税評価額を抑えられることは先述したとおりですが、不動産を収益不動産として活用することで、相続税節税の効果を上げることができます。相続税節税の仕組みについて、以下見ていきましょう。
相続税評価額をより低減
相続税評価額をより低減させる仕組みは、「借家権割合」、「借地権割合」という考え方にあります。なぜならば、不動産を賃貸していると、借地借家法により入居者側が守られる立場となり、オーナー側は自宅と比べ自由に扱えない部分が増えるため、その不自由な分を相続税評価額から減額できるのです。
結果、自宅として相続する相続税評価額をよりも、評価額をさらに抑えることができます。収益不動産の場合、自宅よりも20%程度、相続税評価額が抑えられるといわれています。
ちなみに借家権割合は一律30%と決まっていますが、借地権割合は30~90%の範囲内で設定されます。
では、実際に収益不動産(賃貸アパート)を土地5,000万円、建物1億円の合計1億5,000万円で購入した場合の相続税評価額がどのくらい圧縮されるのかをみていきましょう。計算上、固定資産税評価額や借地権割合などは以下のように仮定します。
・土地の相続税評価額:路線価方式で求めた評価額(購入価格の70%程度)
・建物の相続税評価額:固定資産税評価額(購入価格の60%程度)
・借地権割合:70%
・借家権割合:30%
・賃貸割合:100%
土地部分の相続税評価額
土地の相続税評価額は、以下の計算式で求められます。
土地の相続税評価額✕(1-借地権割合✕借家権割合✕賃貸割合)
この式に当てはめると、土地の相続税評価額は5,000万円✕70%=3,500万円ですので、
3,500万円✕(1-0.7✕0.3✕1)=2,765万円が収益物件としての土地の相続税評価額になります。
自宅用だと、借地権割合および借家権割合、賃貸割合は考慮されないため3,500万円ですが、それよりも約20%低い735万円の評価減ができたとわかります。
ただ、空室があり、入居率=賃貸割合が80%だった場合はどうでしょうか。
入居率が80%の場合、3,500万円(1-0.7✕0.3✕0.8)=2,912万円となり、入居率が100%の状態よりも評価額が高くなります。そのため、あまりにも空室が多く入居率が低い収益不動産の場合は、相続税評価額を抑える効果が少なくなります。収益物件の空室対策は相続税対策にも繋がるのです。
土地部分の計算には借地権割合を利用する点が特徴です。借地権割合は、国税庁が発表している「路線価図・評価倍率表」に表示されています。借地権割合は記号で表示され、以下のとおりとなっています。
記号 | 借地権割合 |
A | 90% |
B | 80% |
C | 70% |
D | 60% |
E | 40% |
F | 50% |
G | 30% |
建物部分の相続税評価額
建物部分の相続税評価額は、「建物の相続税評価額✕(1-借家権割合✕賃貸割合)」で求められます。最初の手順として、まず建物の相続税評価額を求めます。建物自体の相続税評価額は固定資産税評価額(購入価格の70%)なので、1億円✕0.7=7,000万円になります。
そして、収益不動産としての相続税評価額を求めると、
建物の相続税評価額7,000万円✕(1-借家権割合0.3✕賃貸割合1)
=相続税評価額4,900万円
になるというわけです。
ちなみに、借家権割合が一律30%というのは、財産評価基本通達 94(※)によって決められており、国税局長が定めています。借家権割合が30%と固定されるため、建物部分の相続税評価額において、入居率(賃貸割合)は非常に重要なポイントとなります。
仮に入居率が80%の場合、相続税評価額は7,000万円✕(1-0.3✕0.8)=5,320万円となり、土地部分よりも評価額の上がり幅が大きくなるからです。
収益不動産は居住用不動産に比べ、相続税評価額を抑えることができますが、入居率(賃貸割合)が低い収益不動産だと効果が薄くなる点に気をつける必要があります。
※ 出典:国税庁 財産評価
収益不動産による相続税対策のメリット・デメリット
収益不動産による相続税対策はメリットが大きいものの、デメリットも存在します。相続税が節税できること以外のメリットとともに注意すべきデメリットについて解説します。
メリット
収益不動産には、相続税を節税できるメリット以外に以下のメリットが存在します。
長期的に家賃という安定収入を得られる
収益不動産は、入居者様がいるかぎり家賃収入を得ることができます。賃貸需要のある良好な立地に建てられた収益物件は、長期的に安定した収入を得られる点が相続税対策以外のメリットです。安定した収入が得られるということは、生活するうえでの安心につながりますし、不動産所得における減価償却の仕組みをうまく活用することで、所得税・住民税を抑えることも可能です。
借入金を活用したレバレッジ効果
レバレッジ効果とは、少ない資金で大きな収益が期待できることをいいます。不動産を購入し、賃貸経営を行う際には、金融機関からの融資を受けるのが一般的です。不動産投資におけるレバレッジ効果とは、「小額の自己資金で大きな収益を得る」ことで、金融機関からの融資を受けることにより、自分の資金だけでは実現不可能な投資効果が期待できることにあります。
投資のリターンは投資金額により変わりますが、株などの金融資産と異なり、融資を活用して収益不動産を保有し、資産拡大ができるメリットがあります。
インフレに強い資産を築ける
不動産にはインフレに強いという特長があります。インフレに強いということは、物価上昇によりお金の価値が下がったとしても、不動産の資産価値は下がりにくいばかりでなく、物価上昇にともなって物件価格も上がる傾向にある点もインフレに強い理由を裏付けています。
デメリット
一方、不動産経営には代表的なものだけでも以下のリスクがあります。対策と合わせて確認してみましょう。
空室リスク
常に満室の状態であればいいのですが、その状態が永遠に続くとはかぎりません。また入居者様を募集しても、なかなか成約に結びつかないこともあり得ます。空室時でも室内のメンテナンスは必要ですし、管理費用が発生しますので、家賃収入が入らないにもかかわらず支出が発生し、収支がマイナスになってしまう可能性もあります。
空室リスクを避けるためには、物件購入の際に賃貸需要がある地域かどうかを考えることや、空室対策に強く、入居者様の募集に実績のある賃貸管理会社に管理業務を委託するなどの対策で、リスクに備えることが可能です。
家賃滞納リスク
家賃滞納リスクの問題点は、家賃収入が入らないだけでなく、滞納している入居者様が住み続けることも含まれます。家賃の滞納が発生すると、回収できるまでに時間がかかり、その間の管理費用も発生します。家賃の回収にあたって、入居者様とトラブルになることは、できるだけ避けたいものです。
家賃滞納リスクを避けるためには、入居者様の審査を念入りに行うことや家賃保証会社への加入も考えておきましょう。
修繕リスク
建物・設備は経年劣化が避けられず、定期的な修繕が必要です。修繕を行うことで入居者様の安全を確保できるばかりでなく、資産価値を維持することもできます。逆に修繕を怠ることで資産価値が下がり、入居者様が退去したり、新しい入居者様が入らないという事態に陥る可能性もあります。
設備の修繕を定期的に行うことはもちろん、入居者様が退去した後の原状回復工事も必要です。必要に応じて、資産価値を高めるリノベーションを考えることも有効です。
ただし、賃貸経営で大切な収益をおろそかにしてはなりません。入居者ニーズを反映するミニマムコストでの工事対応により、入居率の維持向上と収益のバランスにも気を配ると良いでしょう。
相続対策として収益不動産の活用は有効! 信頼できるパートナーを持とう
相続税対策として収益不動産を活用することは、不動産の相続税評価が減額されることでとても有効な手段といえます。しかし、節税だけを目的に賃貸経営を行うとリスクへの備えが不十分になります。賃貸経営にリスクがともなうことも事実ですが、不動産投資や賃貸経営などのアパート経営・マンション経営のリスクはコントロールすることが可能です。
リスクに備えるためにも、賃貸経営をトータルサポートでき、中立的な視点でオーナー様と伴走する、信頼できる賃貸管理会社を選ぶことが賃貸経営を成功に導く道となります。
管理戸数と仲介件数の多い【リロの不動産・リロの賃貸・リロの売買】は、リスクコントロールに関する多様なノウハウを持っています。相続税対策関連の知識も保有しており、さらに『4つの空室対策』や管理オーナー様の優良物件が循環する「売れる仕組み・買える仕組み」などの強みを持っていることは、賃貸経営を成功させるための戦略的なパートナーになります。
収益不動産の売却や賃貸経営を考えている方は、資産活用、駐車場経営、相続対策に実績のある【リロの不動産】にぜひご相談ください。
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この記事を書いた人
秋山領祐(編集長)
秋山領祐(編集長)
【生年月日】昭和55年10月28日。
【出身地】長野県上田市。
【趣味】子供を見守ること。料理。キャンプ。神社仏閣。
【担当・経験】
デジタルマーケティングとリブランディングを担当。
分譲地開発のPMや家業の土地活用などの経験を持つ。
リノベした自宅の縁の下に子ども達の夢が描かれている。