土地の境界トラブルはどうすればよい? よくある事例と解決方法を解説

2023.08.15

土地や戸建て住宅を売ったり買ったりするときに、隣地との境界をめぐってトラブルとなることがあります。土地の境界線があやふやなことが原因で、相続発生時に親族同士でもめごとになるケースも少なくありません。

土地をめぐる数多くのトラブルを防ぐためには、あらかじめ土地の境界線を明確化しておくことが大切。土地の広さや面積が正確に分かることで、適正価格での売却にもつながります。

そこで今回は土地の境界線を調べる方法について解説しましょう。典型的な境界トラブルについての解決方法などもご紹介しますので、ぜひ参考にご一読ください。

境界線は2種類ある

土地の境界線は基本的に2種類あります。公法上の境界である「筆界」と、私法上の境界である「所有権界」です。2つの境界線の特徴をそれぞれ押さえておきましょう。

筆界

「筆界(ひっかい)又は(ふでかい)」とは、土地が初めて法務局で登記された際に、土地の範囲を定める境界線として定められた区切りです。明治初期に行われた地租改正に基づき不動産登記法にのっとって定められた公法上の境界線となっており、土地の所有者同士で勝手に変更することはできません。

分筆や合筆などの変更がないかぎりは、最初に登記された区画線のまま固定化されます。所有者同士の認識ではなく、不動産登記上の境界線であることを押さえておきましょう。

実際の現地において目に見える形で筆界の線引きされてはいるわけではないため、筆界となる境界線の確認は、法務局に保管されている「地図・公図」や「地積測量図」などを手がかりに行われます。

所有権界

「所有権界(しょゆうけんかい)」は、お互いの接する土地でそれぞれの土地所有者の所有権がぶつかり合う「私法上の境界線」のことです。公法上の境界である筆界に対し、土地所有者の話し合いや合意、慣習上の取り決めなどによって定められた土地の境界を意味し、現地ではブロック塀や境界標などで所有権のおよぶ範囲を表示していることが多いです。

明治初期の地租改正時に筆界が定められる前から、各地域では所有者同士での話し合いによって境界線が決まっていました。筆界のほとんどはこのような私法上の境界線を考慮に入れて定められたため、筆界と所有権界は基本的には一致します。

ところがまれに地図・公図や地積測量図作成時の過失があったり、当事者同士で境界線を変更したりといったことが起こるため、実際には筆界と所有権界が一致しないことも少なくありません。

境界線の確認においては、土地所有者同士の認識に基づく所有権界と不動産登記上定められた筆界の両方を確認し、両者が一致しているかどうかを調べる必要があります。

境界線を調べる3つの方法

土地の境界線を調べる方法には、主に以下の3つの方法があります。

・法務局で土地の情報を調べる
・測量士に依頼する
・土地家屋調査士に依頼する

順番に解説しましょう。

法務局で土地の情報を調べる

法務局では「登記事項証明書(登記簿謄本)」「地図・公図」「地積測量図」を取得し、土地の情報を調べることができます。これらの情報は手数料さえ支払えば誰でも入手することが可能です。

登記事項証明書(登記簿謄本)とは、その土地の所有権や抵当権などの権利情報や番地・地積などの基本情報が網羅されている資料です。ここに記載されている所有権などの民法上の権利は第三者に対して権利主張(対抗)することができます。

ただ、登記事項証明書(登記簿謄本)には具体的な土地の境界線の位置などの情報は記載されていません。あくまでも土地や建物の現況や権利関係を確認するための情報とご理解ください。

地図・公図は土地の現況や形状、位置関係などが示され、図面化された情報です。境界線の確認においても必須の資料といえます。 

さらに境界線の特定で重要な役割を担うのが地積測量図です。実際の土地の測量データなどのきわめて正確な計測資料が記載されており、基本的に細かな境界線の確認は地積測量図を元に行います。

ただし、地積測量図は作成された年代によって正確性が大きく異なる点に要注意。特に古い時代の地積測量図は、現況を正確に反映していないものが多いです。古い登記記録のままの土地では地積測量図すら備えられていない事例もあるので、その場合は新たに地積測量図を作成する必要があります。

測量士に依頼する

測量士はあらゆる地形の測量に関する計画作成と測量実施を行う国土交通省管轄の国家資格者です。測量士の本業は公共事業などの前提となる土地の測量です。測量士の作成した測量結果をベースに工事の事業計画などが作成されていきます。

ただ、測量士は測量に関するプロフェッショナルとはいえ、一般家屋や土地などの登記状況の特定を目的とする測量は専門外です。あくまでも正確に土地や建物の状況を測量することが仕事ですので、正確な地積測量図がなければ境界線の特定は難しいでしょう。

実際に境界線があいまいな土地の多くは正確な地積測量図がないケースが多く、その場合は境界線の特定業務を測量士に一任することはあまりおすすめできません。

土地家屋調査士に依頼する

境界線の調査に関するプロフェッショナルといえば土地家屋調査士です。

土地家屋調査士は不動産の「表示に関する登記(表題部)」の登記申請を専門とする法務省管轄の国家資格者です。不動産の登記申請は土地や建物の物理的現況を明らかにする表示に関する登記(表題部)と、所有権や抵当権などの民法上の権利変動を記録する権利部に分かれていますが、このうち表題部の登記申請を専門とするのが土地家屋調査士となっています。

ちなみに権利部の登記申請は司法書士が専門家として行い、それぞれの登記申請は業務独占業務です。

土地家屋調査士は登記申請の依頼を受けた土地や建物の所在や形状・利用状況などを現地で測量調査し、必要であれば関係機関から資料を集めて図面を作成します。作成した図面や添付資料を元に表題登記の申請手続きを行うのが主な業務内容です。

土地家屋調査士は土地や建物の現況について法的知識や測量技術を駆使して調べるだけでなく、地域の調査や隣地所有者との境界確認なども業務として行ってくれます。まさに境界線の特定に関する専門家といえるでしょう。

さらに土地の境界が明らかでない場合に設けられた「筆界特定制度」の申請代理人にもなります。土地の境界線がわからない場合にも問題解決へ向けた業務を任せられる存在です。

境界トラブルのよくある事例

境界トラブルは非常にやっかいなものですが、トラブルの原因には典型的なパターンがあります。ここでは主に3つの原因にしぼって、境界トラブルによくある事例をご紹介しましょう。

認識の相違によるトラブル

境界線トラブルの中で最も多いのが、お隣同士で境界線についての認識が食い違うことで起こるケースです。

具体的な事例を挙げると、以下のようなことがあります。

・かなり古い時代にお互いの親族が境界線を決めたものの、現在は正確な境目がわからなくなっている。今の世代の家族がお互いの家での取り決めを覚えていない。

・途中で境界線を移動させる話し合いがあったことをどちらかが忘れている。

・境界線となるブロック塀の工事費用を出した側がブロック塀部分までの所有権を主張し、境界線がブロック塀の内か外かでもめる。

このようなトラブルは、筆界と土地所有者の認識上の所有権界のズレが原因で起こります。日々の生活上、お互いの土地の所有者の使用範囲が時間とともに変化しやすいのがトラブルになりやすい要因です。
 
一度土地の境界トラブルでもめると、長年良好な関係性だったお隣同士が一気に険悪な関係になることも少なくありません。認識の違いがみられるようであれば、速やかに第三者の専門家を入れて、お互い立ち合いのもと境界線を特定する必要があるでしょう。

境界標が工事で失われたことによるトラブル

次に多いのは、以前に設置したはずの「境界標」が失われたために現地で境界がわからなくなるケースです。

境界標とは不動産登記規則第77条1項9号で定められた「筆界点にある永続性のある石杭 又は金属標、その他これに類する標識」で、土地の各境界点に設置されている金属標や金属鋲、コンクリート杭や石杭などのことです。

境界標は簡単に除去されないように固定されているものの、ブロック塀の設置などの外構工事や下水道工事の際に一時的に移動させることがあります。通常は移動前にしっかり記録して工事後に復元するのが基本ですが、中には正しい位置に戻さない施工会社もあるようです。

さらに、工事時期がかなり昔に行われていると境界標が失われた経緯がわからなくなることがあり、これが境界トラブルの原因となることもあります。

境界標は必ずしも設置義務のあるものではないため、境界標が設けられていない土地や家屋もかなり存在するのが実情です。

塀や樹木などの越境トラブル

3つめは屋根や雨どい、ブロック塀などの構造物、樹木や設備の一部がお隣に越境してしまう境界線トラブルです。

越境トラブルの原因は主に次の2パターンに分けられます。

➀お隣との筆界上に住宅設備などを設置してしまった

②筆界にしたがって土地を使用していたものの、樹木や物置などが後日越境していることが判明し、その除去が困難な状態になった

特にやっかいなのが屋根や雨どいなどの建物の一部が隣地にはみ出してしまっているケースです。

例えば屋根の一部が隣の土地にまではみ出している場合、屋根で覆われた土地部分は「敷地面積」として認められない可能性があります。これでは相手側の土地の財産評価を大きく毀損する事態につながりかねません。

所有物の越境については、故意の有無にかかわらず越境させた側に撤去義務がありますが、建物の構造と一体となった部分の撤去は簡単ではないでしょう。費用負担も大きくのしかかってきます。

越境トラブルは越境物を速やかに除去できるかどうかで解決への道のりが大きく変わってくる点に気をつけたいところです。

近隣とトラブルになったら

境界トラブルはご近所同士の争いとなるため、なるべく円満な解決方法を探る必要があります。では万が一トラブルに発展した場合、どのような解決方法があるのでしょうか。代表的な解決方法を5つご紹介しましょう。

話し合いで解決

土地の境界をめぐってトラブルになったら、まずはじめに当事者同士での話し合いでの解決を目指します。お互いに言い分があるでしょうが、感情的になることをできるだけ押さえ、境界標や図面などの客観的な資料がないかについて確認してください。また、撤去可能な越境物が問題となっているのであれば速やかに撤去しましょう。

境界線について具体的にどのように調べればよいかわからない場合は、相手との合意の上で専門家である土地家屋調査士に調査依頼を出します。土地家屋調査士なら第三者として問題解決に向けて相談に乗ってくれるでしょう。

土地家屋調査士の測量と調査結果によって土地の境界が明らかになった場合は、あらためてお隣と境界についての合意を取り付けます。合意が成立したら土地の測量図面とともに合意内容を「境界確認書」として作成してもらいましょう。境界確認書は当事者双方が署名押印し、お互いに1通ずつ保管します。

筆界特定制度

当事者同士の話し合いで解決できない場合は、法務局の実施する「筆界特定制度(ひっかいとくていせいど)」を利用する方法がおすすめです。

筆界特定制度は法務局の筆界特定登記官が、「筆界調査委員」(実務上、主に土地家屋調査士が任命される)に対して問題となっている土地境界を調査させ、あらためて筆界を特定させる制度です。法務局が間に入る点が大きな特徴で、調査段階においては当事者が主張内容に沿った資料などを提出することができます。

およそ調査期間は半年から1年前後かかりますが、測量費用は当事者側の負担です。また、対象となる土地の価格によって決まる申請手数料を支払う必要があります。

筆界特定制度は公的機関である法務局が主導して境界線の調査・確認を行いますので、
境界トラブルの解決につながりやすいです。もし筆界特定制度においても当事者が納得できないなどの事情があれば、民事裁判手続きに移ることになります。

ADR境界問題相談センター

筆界の特定のみならず所有権の範囲についても争いがあるケースでは、筆界特定制度だけでの問題解決が難しい場合もあります。さらに特定した筆界に対して当事者同士の不満があれば、民事裁判上での決着が求められることも考えられるでしょう。

しかし、民事裁判には大きな労力や費用が伴います。そこで民事裁判で争う前に調停での解決を図る方法が「ADR境界問題相談センター」による民事調停手続きです。

ADR(Alternative Dispute Resolution)とは「裁判外紛争手続き」のこと。ADR境界問題相談センターは裁判そのものでの問題解決を図るのではなく、土地家屋調査士と弁護士が調停人として当事者同士の話し合いをサポートするための機関です。

具体的には簡易裁判所における調停手続きを利用し、裁判所の関与のもとで代理人や専門家を通じて問題解決へ向けた協議を行います。協議を行うのはお互いの代理人となりますので、当事者同士が直接顔を合わせることはありません。専門家同士での話し合いを通じてお互いの妥協案を探ります。

ただ、ADRでの解決目標はあくまでも当事者双方の和解です。お互いが納得し、トラブル解決へ向けた歩み寄りがなければADRでの決着は困難となります。

民事裁判

筆界特定制度やADR境界問題相談センターでの調停においても双方が納得できない場合は、「境界確定訴訟」などの民事裁判での決着を目指します。

境界確定訴訟とは、公法上の境界について裁判官による判決によって確定させる訴訟のこと。ここでの判決は終局決定となり、判決確定後の境界線が公法上の境界となります。また越境トラブルに関する争いの場合は、占有物の明渡しを求める「所有権確認訴訟」を提起することになるでしょう。

両者ともれっきとした民事裁判ですから、紛争当事者双方は自分の主張の根拠を裏付ける資料を提出し、法的な立場を争わなければなりません。もし相手側の主張が通った判決が出てしまうと決定内容を覆すことは困難ですので、専門家と相談して裁判を有利に進める必要があります。弁護士だけでなく不動産に詳しい専門家からのサポートも欠かせません。

訴訟にかかる弁護士費用などの負担も大きいです。訴訟での資料作成のためには測量調査なども必要となり、訴訟が長引けば長引くほど時間と費用、労力が増えていきます。判決が出るまでの期間は訴え提起から約2年ほどかかるケースが多いです。

不動産仲介会社に対応してもらう

境界トラブルが表面化するのは、長年所有してきた土地や建物の売却や相続を行うタイミングです。普段それほど土地売却や相続に接したことがない方にとって、境界トラブルの解決を自力で模索することは簡単ではないでしょう。

これまでご紹介してきた解決方法1つとっても、どのような点が争点になっているのか、どこに相談をもっていけばいいのか、さらにどのような調査や資料が必要なのかを判断しなければなりません。

そこでまずは土地活用や資産活用に詳しい不動産仲介会社に相談してみるという方法がおすすめです。不動産仲介会社が積極的に紛争解決に乗り出すことは難しいですが、地域特有の事情や過去の事例などのノウハウを持つ会社も多いため、最適な解決方法を提案してくれる可能性が高いです。

特に土地の売却や相続手続きまでを見据えている場合は、パートナーに選んだ不動産仲介会社に一気通貫で対応してもらう方法も検討してみましょう。スムーズな売却は不動産仲介会社にとっても大きなメリットですので、独自のネットワークを駆使しつつトラブル解決をサポートしてくれるはずです。

また、売却時の買取保証に対応する会社であれば最低売却額での折衝もしやすく最低限の金銭的保証があるため、トラブルのある不動産の売却においては心強い存在となってくれます。

まとめ

境界トラブルの背景には、境界以外のことでのコミュニケーション不足によってお隣同士の認識が食い違ってしまっているケースも少なくありません。まずは日頃から近隣同士である程度コミュニケーションをとっておくことが、境界トラブル防止の第一歩と言えます。

しかし残念ながら境界トラブルに直面した場合は、土地家屋調査士への相談や筆界特定制度などでの解決を目指すことになるでしょう。どこで何を相談していいかわからない場合は、不動産に関する豊富なノウハウを持つ不動産仲介会社に相談してみることも大事。問題を放置せず、速やかに解決へ向けた行動を取ることでトラブルの深刻化を防ぐことができます。

【リロの不動産】は数多くのオーナー様の不動産売却をサポートした実績を誇る不動産仲介・管理のプロフェッショナルです。各地の地域事情に通じているだけでなく、大手並みの売却ノウハウや豊富な専門家ネットワークを持ち、境界トラブルへのサポート経験も豊富です。お困りの方はぜひ一度【リロの不動産】まで気軽にご相談ください。

アバター画像

この記事を書いた人

秋山領祐(編集長)

秋山領祐(編集長)

【生年月日】昭和55年10月28日。
【出身地】長野県上田市。
【趣味】子供を見守ること。料理。キャンプ。神社仏閣。
【担当・経験】
デジタルマーケティングとリブランディングを担当。
分譲地開発のPMや家業の土地活用などの経験を持つ。
リノベした自宅の縁の下に子ども達の夢が描かれている。