不動産投資は法人化がお得?節税対策につながるメリット・デメリット
2023.01.18不動産投資を行なうにあたって、個人で行なうよりも法人化するほうがメリットがあるのではないかと考えている方もおられるのではないでしょうか。不動産投資の節税対策を考える際には、個人そして法人の違いやそれぞれのメリットそしてデメリットについて理解した上で判断する必要があります。
今回は、不動産投資を行なう場合、法人化したほうが節税対策になるのかについて解説します。
目次
【不動産投資】個人と法人の違いは?
不動産投資を行なうにあたり、個人で行う場合と法人で行う場合とでは、どのような違いがあるのでしょうか。違いは「税制」、そして「融資対策」にあります。
それぞれの内容について以下に解説します。
税制
個人の場合は、所得税が課税対象です。現在の日本の所得税は課税所得金額が多くなるにつれ、適用される税率が高くなる累進課税制度を採用しており、課税所得金額に応じて5%~45%の税率を乗じて計算します。
法人税はその年の所得金額が800万円以下の部分については15%、800万円を超える部分については23.2%とほぼ一定です。個人と法人では適用される税制が異なりますし、税率についても異なります。
さらに、確定申告において、個人であれば、不動産保有時の家賃収入は不動産所得として計上し、不動産を売却した際の売却益については譲渡所得として計上するため、売却した際に損失が発生したとしても、原則として不動産所得と譲渡所得の損益通算はできません。
しかし法人であれば、個人における不動産所得そして譲渡所得両人について所得として扱うことから、確定申告にて売却益と所得の損益通算が可能です。
法人の場合は別の事業で発生した黒字について、不動産所得の赤字で相殺することができるため、全体の課税所得を減らすことができます。
個人と法人の税制には、このような違いがあります。
融資対策
個人の不動産投資で融資を受けようと思った場合、審査において物件の収益性や担保評価と合わせ、個人の信用力が重視されます。法人の場合は、業績が重視されるため、金融機関は決算書の内容を詳細に審査します。そのため、審査前に決算書の内容について、自己資金の多さや当期利益の潤沢さが目立つ内容に仕上げておくことで、融資における審査の経過ほどでプラスに働くケースもあります。
また、不動産投資では、融資を受けることで、レバレッジ効果が期待できます。レバレッジとは、実際の金額の数倍~数十倍の金額で取引することで、少ない資産で大きな利益を得ることですが、その分、損失が発生した際の損失額も大きくなってしまうというデメリットがあります。
そのため、融資によってレバレッジを効かせて資産を拡大させるにあたっては、法人化するほうがよいという考え方もあります。
法人における効果的な節税対策とは
節税とは、国が定めた税制ルールにそって経費などを用いて、合法的に税金の額を減らすことです。逆にルールを破って税金を減らすことは「脱税」となり、処罰の対象となります。
では、法人における効果的な節税対策にはどのようなものがあるのでしょうか。
節税テクニックと4分類
法人に課せられる法人税や法人事業税、さらに法人住民税については、いずれも、法人の益金から費用や控除などの損金を差し引いた課税所得を元に算出します。当然ながら、課税所得が少なければ、支払う法人税や法人事業税、法人住民税も少なくなります。
そして、節税のテクニックは以下の4つに大分されます。
・王道的節税:新たなお金を必要とせずに行える節税(経費見直し、役員報酬適正化など)
・投資型節税:お金はかかるけれども、将来につながる節税(臨時賞与を決算賞与として支給する、設備投資や不動産投資など)
・保守的節税:お金はかかるけれども、会社を守るために役立つ節税(小規模企業共済などへの加入)
・消費型節税:消費によって課税所得を減らす節税(社有者の購入など)
効果的に節税を行うためには、まず新たなお金を必要としない「王道的節税」を行い、その後必要に応じてお金がかかる節税について検討する必要があります。
また、消費型節税については、あまりにも過剰に行うと無意味に利益を減らす結果となってしまい、本末転倒にもなりかねないため、注意しておきましょう。
不動産投資は法人の節税対策のひとつ
不動産投資は、法人の節税対策として有効な手段といわれています。なぜなら、事業用不動産を取得し、減価償却費を計上することで法人の課税所得を減らすことができ、最終的な節税につながるからです。
合わせて、「減価償却期間中は特に節税効果が高い」ことを覚えておきましょう。そして取得費は「土地の価格+(建物の価格-所有期間中の減価償却費相当額)」になるため、減価償却期間を過ぎてしまうと、課税対象となる可能性が高まり、節税効果を得られなくなってしまいます。ほかにも場合によっては消費税が発生するケースもあるでしょう。
ちなみに、減価償却費が元本返済額を上回る状態になることを「デッドクロス」といいます。デッドクロスの状態になると、帳簿上は利益が出ている状態になっていても、実際にはその利益に対する税負担でキャッシュフローが悪化してしまう恐れがあります。
そのため通常なら、支出が発生しないにもかかわらず経費として計上できるはずが、支出が発生していても経費計上できないため、キャッシュフローの悪化を招く点に注意が必要です。
また、物件を取得する際には融資を受けられるため、大きな資金を必要とせずに取り組めることや、事業用の不動産で家賃収入を得ることができ、事業以外で安定したキャッシュフローを確保できることは、法人にとってメリットといえるでしょう。
不動産投資家が法人設立をするタイミング
では、個人の不動産投資家が法人を設立するタイミングはいつがいいのか、具体的に見ていきましょう。
個人と法人の税率を比べて法人税のほうが低くなる規模
判断基準としてまず考えられるのは、「法人化することで法人として適用される税率の方が個人として適用される税率よりも低くなる」規模です。具体的に個人と法人の税率を比べると、課税所得が900万円を超えるタイミングで、法人税の方が低くなることがわかります。このことから、「課税所得が900万円を超えたとき」が、法人化を検討するタイミングといえます。
ちなみに国家公務員であれば、「国家公務員法103条」に明記されているとおり、公務員は原則として副業を禁止しています。しかし公務員であっても、不動産投資なら、条件を満たすことで取り組むことは可能です。ただし、法人化や条件を超えた規模になってしまうと、副業規定に違反してしまうことがありますので、注意が必要です。
不動産または駐車場の賃貸が次のいずれかに該当する場合、自営と見なされ、副業規定に反することになります。
(独立家屋の賃貸)
・家屋の数が5棟以上
・区分室数10室以上
(土地の賃貸)
・賃貸契約件数10件以上
(駐車場の賃貸)
・駐車台数10台以上
・駐車場が建築物もしくは機械設備を設けている
(収入)
不動産または駐車場の賃貸にかかる賃料収入の額が年間500万円以上
手間やコストを抑える目的のため最初から法人化する
個人で事業を開始し、その後法人化するという考え方もありますが、収支に関係なく最初から法人化するのも1つの方法です。個人と法人には税率の違いだけでなく「減価償却費の任意償却」というメリットが存在するからです。
減価償却費は原則として、その固定資産の耐用期間に応じて一定の減価償却の方法により、毎年計上しなければなりません。しかし、法人税法上では、法定耐用年数に基づいた償却限度額と法人が減価償却費として会計処理を行った金額のいずれか低い金額を計上できることになっており、事実上、任意償却が認められています。
不動産投資を始めるにあたって、いずれは法人化したいと考えているならば、最初から法人化してしまってもよいでしょう。なぜなら、すでに個人で不動産投資を行っている方が、途中で法人化する場合、保有している収益物件の名義変更手続きが必要となり、さらに、不動産取得税や登録免許税といった費用が発生するためです。
最初から法人化しておけば、それらの費用を削減することができるほか、手続きを行う手間も省けるでしょう。
不動産投資における法人設立のメリット・デメリット
不動産投資の法人化によって節税効果が高まることが分かったところで、法人設立におけるメリットそしてデメリットについて理解しておきましょう。
メリット
不動産投資で法人を設立するメリットには、「10年間の損失繰越」、そして「減価償却費の任意償却」の2つがあります。
法人では10年間の損失繰越が認められています。損失繰越とは、事業年度が赤字だった場合、赤字を繰越欠損金として翌年に繰り越せる仕組みです。個人事業主にも損失の繰越は認められていますが、繰越できる期間は3年間です。それに比べ10年間繰越ができる法人は有利といえるでしょう。
上述のとおり、法人には減価償却費の任意償却が認められています。法人税法31条に規定されているとおり、法人は減価償却資産について、当該事業年度に計上する金額については、償却限度額以内であれば、金額を問われないことになっています。つまり、減価償却費を0円で計上しても問題ありません。例えば、今年は黒字決算にしたいから減価償却費を計上しないとすることも法人であれば可能です。
デメリット
法人化するには、法人設立登記を行う必要があります。そのためには、まず定款を作成し、公正役場で認証してもらわなければなりません。そして、登記申請書類を作成し、法務局にて申請する必要があります。
さらに、定款の認証や法務局への申請費用として株式会社であれば最低でも20万円は用意しなければなりません。そのほか、社印などの作成費用など、会社の設立にはまとまった費用と手間がかかります。
ちなみに、個人事業主が法人化する際によく選ばれるのが「合同会社」です。株式会社と比べ、設立費用が安くすむため、節税目的で法人化するなら、合同会社を選んでもいいでしょう。ただし、合同会社の形態は設立されてからの年数が浅いため、注意点やデメリットをよく理解した上で設立する会社の形態を選ぶようにしてください。
また、個人と異なり、経理処理が複雑になることから、経理処理を税理士に依頼する費用が発生する点もデメリットといえるでしょう。さらに、個人事業主だと最大65万円の青色申告特別控除が認められていますが、法人にはそのような控除は認められていません。
法人所有の社員寮や土地の有効活用
社員寮を保有する企業や、土地の有効活用に悩む法人様も多くおられます。条件によっては、社員寮としての活用促進や、シェアハウスへの転用など、所有している不動産を有効活用するすべがあります。
また、事業計画がある土地などでも、期間限定で駐車場経営を行うなど、有効活用できる場合もあります。
資産を保有されている法人様は有効活用について1度検討することをおすすめします。
法人における賢い節税対策とは?
法人化し、節税対策を行おうと考えているなら、効率的な節税効果を考えていきたいものです。ここでは、法人における節税対策のポイントを、「一般的な節税対策」と「不動産を利用する節税対策」それぞれにまとめて解説します。
役員報酬を適切に設定すること
一般的な法人における節税対策の一つとして、「役員報酬の最適化」が挙げられます。役員報酬を設定する際には、会社にかかる税金と、個人にかかる税金のバランスを取りながら、最適な金額に設定することがポイントです。税負担を最小化し、手取り額の最大化を考えるようにしましょう。
仮に役員報酬を少なく設定してしまうと、会社に利益が出すぎ、法人税など多くの税金がかかってしまいます。かといって多く設定してしまうと、今度は個人の収入が増えすぎてしまい、個人の所得税や住民税が大きくなってしまいます。
また、注意したいのが、役員報酬の金額変更時期です。役員報酬の金額変更は、年度の開始から3ヶ月以内でなければならないと決っており、例えば年度の開始が7月1日の会社であれば、10月の役員報酬を支給する日までに金額を変更する必要があるということを覚えておきましょう。
不動産投資で減価償却を用いた節税対策
不動産投資は、法人の節税対策の一つであり、カギは減価償却にあります。事業用の不動産を取得し、減価償却費を計上することで当該年度の課税所得を減少でき、結果として節税効果が得られるしくみです。そして、減価償却が可能な期間は特に節税効果が高く得られる点を最大限活用することが大切です。
また、売却を考えているなら、売却時に取得費から所有期間中の減価償却費を引いた金額が、売却額を上回ると課税対象となるため、減価償却費として計上する金額を調整するなど減価償却を利用して課税されるタイミングをコントロールする考え方もあります。さらに、購入時に融資を受けることで、レバレッジ効果を得られるため、少ない元手で資産を拡大することもできます。
一方で事業用の不動産によって家賃収入を得ることができ、本来の事業以外で安定したキャッシュフローを確保できることは、法人にとってもメリットといえるでしょう。
相続税対策としても法人化が有効
法人化は相続税対策にも有効です。なぜなら、不動産自体が現金や有価証券などといった金融資産と比べ、さらに相続税評価額を削減できる可能性があるからです。
法人の場合、相続税の課税対象となるのは、その法人の株式です。非上場会社の株式評価は、個人が直接資産を保有しているケースに比べ評価が低くなることが多く、結果として相続税を抑えることが可能です。
さらに、相続人を役員にすることで、役員報酬という形で、相続人に対して生前に所得を移転できるケースもあります。移転するのは所得ですので、贈与税を考慮する必要もありません。
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法人が不動産投資を行うことで、損益通算や設備投資などで効率的な節税対策が行えます。また、少ない資産で大きな利益を得るレバレッジを効かせるためにも、法人の方が有利という面があります。
法人化するタイミングやメリットさらにはデメリットもありますので、内容を理解したうえで、法人化を行いましょう。また、これから不動産投資を始める方で、今後法人化を考えているなら、はじめから法人化しておくほうが、法人化する際の手続きの手間が省けるというメリットがある点も覚えておきましょう。
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この記事を書いた人
秋山領祐(編集長)
秋山領祐(編集長)
【生年月日】昭和55年10月28日。
【出身地】長野県上田市。
【趣味】子供を見守ること。料理。キャンプ。神社仏閣。
【担当・経験】
デジタルマーケティングとリブランディングを担当。
分譲地開発のPMや家業の土地活用などの経験を持つ。
リノベした自宅の縁の下に子ども達の夢が描かれている。