不動産購入は法人と個人どっちがお得?法人化するタイミングも解説

2023.04.07

「不動産の購入は、法人の方が有利でしょうか?」とのご相談は、【リロの不動産】でもたくさんお寄せいただいております。特に賃貸経営が軌道に乗り始め、収益規模が拡大する段階に入ると、「法人化」のタイミングで迷うことが多くなるはずです。

この記事では不動産投資家にとっての「法人化」に焦点を当て、個人と比べてどのようなメリット・デメリットがあるのか、わかりやすく解説します。法人化をご検討中のオーナー様の参考になれば幸いです。

不動産を法人名義で購入する場合のメリット

まずは不動産を法人名義で購入するメリットをまとめます。結論からいうと、法人化による最大のメリットは「節税効果」にあります。具体的にどのような点で有利なのか、主に5つのポイントを挙げて解説しましょう。

個人よりも経費化できる範囲が広がる

法人は個人と比べて、経費計上できる項目の範囲が広がる傾向にあります。特に「役員報酬」や「給与」などを必要経費として計上できるのは大きな違いです。

「役員報酬」や「給与」などの人件費は「必要経費」となり、税法上、法人が得た収益から差し引かれるため、法人税の課税対象額を抑えられます。ご家族を役員にするなどの方法を取ると、法人税トータルでの納税額を抑えつつ、不動産から得た収益をうまくご家族内に分配することが可能です。もし役員となったご家族がほかの会社から給与を得ていない場合は、「給与所得控除」などの各種の控除も適用されます。

また、法人のみを対象とする「法人保険」の掛け金も必要経費として計上可能です。2019年の法改正の影響もあり、解約返戻率の高い保険(要するに「貯蓄性」の高い保険)での損金計上割合いは少なめになっていますが、個人事業主には存在しない一定の経費を計上できる点において、節税対策で有利といえるでしょう。

減価償却によって所得税や住民税、法人税の節税につながる

減価償却費によって、所得税や住民税、法人税が軽減される点は個人事業主、法人ともに共通です。ただ、個人事業主の場合は毎年一定の減価償却費を計上する必要がある一方、法人の場合は毎年の減価償却費用の枠内であれば自由に金額を設定し、必要経費として計上できます。これを「任意償却」といいます。

例えば500万円の利益が出た年度において、その年の減価償却費が600万円だと仮定しましょう。個人事業主だと、減価償却費600万円を当該年度の必要経費として計上しなければなりません。ところが、法人であれば600万円の範囲内で自由に設定できますので、そのまま600万円を計上することはもちろん、0円や50万円に設定して黒字決算になるように調整することも可能です。

あまりにも露骨に決算調整することは会計ルール上禁止されており、現在では減価償却費を使った経費の調整はあまり行いません。後で説明しますが、法人の欠損金は10年の繰越しが可能となっているため、減価償却費を使って利益調整をする必要はなくなってきました。ただ、法人は経理状況を常に明らかにする法的義務があることから、「任意償却」のような柔軟な会計処理が許される傾向にあります。

信用力が増すことで融資が受けやすくなる

金融機関からの信用力の面では、法人のほうが高く評価される傾向にあります。決算などの会計処理が個人事業主よりも厳格なこと、会社情報が公開されており経営状態を第三者が把握しやすいことなどがその理由です。法人は個人と異なり、事業者の死亡による相続のリスクもないことも、信用力につながっています。

金融機関からの評価が高くなると、新たな融資のハードルも下がります。それに加えて、個人投資家と比べると融資枠が拡大される点も大きなメリットといえるでしょう。

例えば、個人でアパートローンなどの融資を取り付ける場合、同時加入する「団体信用生命保険」の枠が融資額上限となるケースがほとんどです。一方、法人の場合は代表者が連帯保証人となることが多く、団信の枠をはるかに超えた金額での融資が決定することも少なくありません。

融資額の上限が大きければ大きいほど、購入する収益不動産の選択肢も増えますので、資産規模の拡大のスピードを一気に上げられるでしょう。

贈与税や相続税の負担を軽減できる

不動産投資事業を「法人化」することで、将来発生するであろう「贈与税」や「相続税」の負担を軽減できる点も大きなメリットです。そもそも収益不動産を事前に法人所有にしておけば、不動産に関して相続自体が発生しません。また、財産を引き継がせたいご家族を法人役員にすることで、「役員報酬」というかたちで相続分を実質上先渡しすることもできます。

個人事業主として経営する事業を贈与する方法もありますが、その場合は「贈与税」がかかります。贈与税の税率は基礎控除後の課税価格3,000万円以下で50%、3000万円超で55%と高めですので、そのまま贈与という形での事業譲渡は現実的ではありません。しかし、あらかじめ法人化しておくと役員交代による事業承継となり、税金の負担を大幅に軽減できます。

収益不動産を法人所有にしたうえで、設立法人の株主を相続人にすることも効果的です。もし被相続人となる前オーナー様が法人の株を全部保有していた場合は、相続発生時に株式の相続が発生します。ところが、あらかじめ相続人を株主にしておけば株式の相続自体も発生しません。

このように法人による節税方法は多彩です。保有する不動産やオーナー様の置かれた状況にあった対策をとりやすい点でも、法人化によるメリットは大きなものとなるでしょう。

不動産の赤字は損益通算で損失繰越が可能

不動産投資事業で赤字が出た分を給与所得などのほかの所得から差し引くことで、所得税・住民税の課税評価額を圧縮することが可能です。これを「損益通算」といい、不動産投資をされるオーナー様にとって法人、個人を問わず利用機会の多い節税手法となっています。この損益通算に関しても、個人と法人で大きな違いがあります。

個人事業主の場合、損益通算によって赤字分を繰越せるのは3年間だけです。一方、法人の場合は10年間の繰越しが可能となります。長期にわたって赤字分を繰越すことができるため、資金計画にも余裕を持たせやすく、節税対策でも柔軟に対応できる点で有利です。

例えばアパート一棟やマンション一棟、複数の収益物件の購入などで多額の購入費用がかかったとしても、10年間のスパンで必要経費として分散できるということ。一時的な空室などで赤字が生じてもほかの期間の黒字と相殺できますので、経営上のリスクヘッジ面においても大きなメリットにつながります。

不動産を法人名義で購入する場合のデメリット

続いて、不動産を法人名義で購入するデメリットについても解説します。法人は個人よりも会計手続きや税制の面で厳格な規定が多く、手続きも複雑です。はじめて法人成りするケースでは、金融機関との間でさまざまな調整を行う必要が生じます。

法人成りの債務引受では金融機関や信用保証協会との調整が必要

個人事業から法人成りをすると、以前に個人で負っていた債務は法人が引継ぎます。不動産投資事業にあてはめると「不動産投資ローンを法人名義で引継ぐ」ということです。このような債務の引継ぎのことを、法律用語で「債務引受」といいます。

「債務引受」は債権者側(お金を貸す側)の金融機関から見た場合、お金を返す人(債務者)が個人から法人に変更される(あるいは追加される)ことを意味しますので、金融機関側(債権者)の「承諾」が法的要件となっています。

債務引受のかたちとしては、以下の2つのパターンが一般的です。

1つめは「免責的債務引受」です。これは新法人が個人の債務を全て引き受けるかたちを取るもので、わかりやすく言えば債務者を個人から法人へと交代する方法です。

2つめは「併存的債務引受」で、こちらは個人事業主本人に追加して法人も債務者に加わることで、債務(ローン返済分)を共に負担します。

実務上多いのは、金融機関にとってのリスクを分散できる「併存的債務引受」です。なお、法人に対する新たな融資審査の際には、オーナー様が法人の連帯保証人につくかたちで融資実行されることが通例となっています。

法人化さえしてしまえばローンも自動的に法人に受け継がれるわけではありませんから、この点にはご注意ください。債務引き受けの中身について、債権者の金融機関や保証人となる「信用保証協会」などと調整する必要があります。

5年以上の長期保有した後の売却では税率が高くなる

法人のほうが税負担が重くなるケースも存在します。その1つが保有期間が5年を超える不動産を売却する場合です。不動産の売却で得た売却益は「不動産所得」となりますが、法人ではさまざまな損益と合算したうえで法人税が課税されます。法人税の税率は経営規模によって違いがあるものの、一般的にはおよそ23%前後、地方税や事業税などの税金も含めると約30%前後が相場です。

一方、個人で不動産を売却して得た「不動産所得」については、売却した不動産の所有期間で税率が異なります。保有期間が5年以下の不動産の売却益(短期譲渡所得)に対しては税率39.63%、保有期間5年以上の不動産の売却益(長期譲渡所得)については税率20.315%です(復興特別所得税を含む)。

つまり、短期保有する不動産を売却する場合は法人の方が有利、逆に5年以上長期保有した不動産の売却では法人が不利ということです。ただし、法人税については売却益の規模や資本金の額によって変動するので、正確な税率は税理士に算出してもらう必要があります。あくまでも一般論として長期保有後の不動産売却は「法人が不利」と理解しておいてください。

法人における決算申告を行わなければいけない

法人化した場合は「決算書」を作成し、決算申告を行わなければなりません。「決算書」とは、会社が自社で決めた決算月で会計を締め切り、それまでの1年間の業績を集計してまとめた書類のことです。帳簿を作成して決算整理仕訳を実施したのち、申告書の作成と税金の金額計算を行います。

会社の経理状況を明らかにするきわめて重要な書類で、法定のルールも厳格です。金融機関からの融資審査でも「決算書」は第1資料として扱われるため、決算書の内容は経営そのものにも大きく影響します。

決算書の作成にはかなり専門的で高度な知識も要求されるため、顧問税理士などの専門家と顧問契約を結び、作成を依頼しなければなりません。法人の年商にもよりますが、顧問契約料の相場は年間50~80万円程度といったところで、物件数や顧問業務の内容により変動します。個人事業主と比較すると、一定のランニングコストがかかる点はデメリットといえます。

法人化するタイミングはいつ?見極めるポイント

「法人化」するベストタイミングはいつでしょうか?オーナー様それぞれの経営方針や事業規模によって異なるものの、おおよそ法人化を検討するべきタイミングには一定の目安があります。

代表的な時期を3つほどあげて紹介しましょう。

被相続人が死亡してから3年10ヶ月以内

相続した不動産を法人名義にしたいとお考えの場合、前オーナー様(被相続人)が亡くなられてから3年10ヶ月以内での会社設立がベストタイミングです。

その理由は「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(取得費加算の特例)」にあります。「取得費加算の特例」の適用を受けると、相続で取得した不動産を一定期間内に譲渡した際、売却不動産に課された相続税分を譲渡所得額の「取得費用」に含めることが可能となります。「相続税」に対してではなく「譲渡所得税」に対する軽減措置という点にご注意ください。

なお、この「取得費加算の特例」には「相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに、当該不動産を譲渡した場合」という期限の要件があります。相続税の申告期限は「被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内」ですので、実質的には「相続を開始してから(被相続人が死亡してから)3年10ヶ月以内の譲渡」が特例適用の対象です。

譲渡所得税の課税評価額は「譲渡価格-(取得費+譲渡費用)」で計算するため、相続税を取得費に加算することで、法人に不動産を譲渡したときに発生する所得税を大幅に縮小できます。
(出典元:国税庁タックスアンサーNo.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm

個人資産における不動産の割合が80%以上

相続税対策の一環として、全資産における不動産の割合を増やすことをご検討されるオーナー様も少なくありません。不動産の課税評価額は「時価」と比べて低く設定されるため、現金資産をそのまま保有するより不動産を保有した方が相続税対策でお得、というのがその理由です。

しかし、不動産の保有割合が大きすぎると思わぬ落とし穴にはまることもあります。特に注意したいのが「相続税の支払い」です。実は相続税の支払いは「現金」での納付が基本となります。そのため、承継資産のほとんどが不動産の場合、相続人が高額の相続税を支払うための現金を調達できないなどのトラブルが起こりがちです。

このような事態を防ぐためにも、あらかじめ事業そのものを「法人化」する方法が有効です。保有する不動産を「法人所有」にすることで収益不動産を外部に売却することなく、個人資産の現金比率を高められます。「役員報酬」や「売却益」というかたちで現金化する仕組みを作っておけば、いざというときに相続人の手元に現金を残すこともできるでしょう。

なお、法人化を検討するタイミングは、個人資産に占める不動産の割合が80%以上になったときです。保有する資産規模によってケースバイケースではあるものの、全資産中の不動産の割合が80%を超えると相続税を十分に支払うだけの現金資産が不足する事例が増えます。

課税所得金額が900万円よりも増えていく可能性がある

3つめのベストタイミングは「個人での課税所得金額が900万円を超えたとき」です。その理由は「所得税率」と「法人税率」の違いにあります。

個人の所得税率は「累進課税制度」が適用されていますが、特に大きく税率が上がるのが「所得金額900万円超」からです。

所得金額695万円超え900万円以下の所得税率は23%(基礎控除額63万6,000円)ですが、900万円超え1,800万円以下になると、所得税率は33%(基礎控除額153万6,000円)にまで上昇します。

一方、法人税は課税所得800万円以下の部分は税率15%、800万円超えの部分は23.2%と一定です。

もう少し分かりやすくするために、個人での課税所得900万円の場合と、法人税の課税対象額900万円での課税額の差を比較しましょう。

ケース1:【課税対象額900万円の場合】

(個人事業主:所得税)
900万円×0.23-63万6,000円=143万4,000円
(法人:法人税)
800万円×0.15+100万円×0.232=143万2,000円

同じ課税対象額900万円で比較すると法人税が2,000円安くなることがわかります。それでは、今度は950万円で比較してみましょう。

ケース2:【課税対象額950万円の場合】

(個人事業主:所得税) 
950万円×0.33-153万6,000円=159万9,000円
(法人の場合・法人税)
800万円×0.15+150万円×0.232%=154万8,000円

ケース2では、法人税のほうが5万1,000円も安くなることがわかります。

以上の例からも分かるとおり、「課税所得額900万円超え」になったタイミングで、法人税と所得税の課税額の差が広がり始めますので、このあたりが法人化を検討するボーダーラインです。なお、会社員と兼業の方は「給与所得」との合算となります。不動産投資での収益分だけで判断しないよう注意してください。

不動産の購入は【リロの不動産】にご相談ください

不動産投資事業での法人化について、メリット面とデメリット面、法人化を検討するタイミングなどについて簡単に解説しました。資金調達能力が大きく問われる不動産投資では、法人化によって収益規模の拡大が爆発的にスピードアップすることも少なくありません。

しかし法人化のタイミングはオーナー様それぞれの経営方針や目的によって千差万別。相続税対策ひとつとっても、将来的にどれくらいの収益を期待するのか、そもそも不動産投資事業を継続するのかなどによって、取るべき手法も変わってきます。

さらに法人化を検討する規模になると、複数の不動産を適切に管理しなければならないため、パートナーである賃貸管理会社の役割も大きくなります。賃貸管理会社が中長期的な展望を持ち、オーナー様のご要望や状況に合った出口戦略を提案できるか次第で、今後の不動産経営・賃貸経営の収支が変わってくるでしょう。【リロの不動産】はこの点で、多くのオーナー様からベストパートナーとしてのご評価をいただいてまいりました。

【リロの不動産】は全国有数の管理実績を持つ賃貸経営サポートのトップランナーです。これまでに培った豊富なサポート事例をベースに、オーナー様それぞれの属性や経営目的、ライフステージに合った賃貸経営プランをご提案します。

不動産の購入や相続も含め、賃貸経営で何かお悩みがある場合はぜひ一度、【リロの不動産】【リロの駐車場】までご相談ください。専門性の高いパートナーと一緒に伴走させていただきます。

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この記事を書いた人

秋山領祐(編集長)

秋山領祐(編集長)

【生年月日】昭和55年10月28日。
【出身地】長野県上田市。
【趣味】子供を見守ること。料理。キャンプ。神社仏閣。
【担当・経験】
デジタルマーケティングとリブランディングを担当。
分譲地開発のPMや家業の土地活用などの経験を持つ。
リノベした自宅の縁の下に子ども達の夢が描かれている。