【徹底解説】オーナーが把握するべき立ち退き交渉術と立ち退き料とは
2023.06.07築年数の古い建物を所有している場合、いずれは取り壊しや建て替えが必要になります。取壊しや建て替えを行うとなると、入居者様に立ち退きをお願いしなくてはなりません。しかしながら、立ち退き交渉は簡単なことではなく、頭を悩ませているオーナー様が多いのが実情です。
そこで本記事では、立ち退きのトラブル事例やスムーズに交渉を進めるコツ、困ったときの相談先など、立ち退きに関する情報をまとめました。立ち退き交渉が必要になる日が近いと悩んでいるオーナー様は、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。
▼この記事の内容
●立ち退きとは、賃貸物件の貸主が借主に対して物件からの退去・明け渡しを請求することを指す
●借地借家法によって、正当事由がなければ貸主は借主に対し立ち退きを要求することができない。正当事由とは、貸主が借主に対して立ち退きを要求する際に必要となる法律上の理由
●借主に債務不履行があった場合でも、賃貸借契約の信頼関係の破壊がなければ、立ち退きは認められない。信頼関係の破壊とは、賃貸借契約において借主が重大な契約違反を行い、その結果、貸主との信頼関係が損なわれた場合を指す
●立ち退き請求の基本的な流れは、借主への意思表示、条件交渉、(合意の場合)任意の明け渡し、(交渉決裂の場合)調停、(調停不成立の場合)裁判となる
●立ち退きをスムーズに進める方法としては、借主と良好な関係を築いておく、入居者が少なくなったタイミングで交渉を始める、書面でやり取りするなどがある
●立ち退きトラブルを回避する制度として、定期借家契約がある
目次
立ち退きとは
立ち退きとは、主に賃貸物件の貸主(オーナー様)が借主(入居者様)に対して「契約期間の更新拒絶」や「解約の申し入れ」をすることによって、物件からの退去・明け渡しを請求することを指します。
家賃滞納など借主の契約違反が原因で行われるイメージが強いかもしれませんが、借主に問題がない場合でも、正当な理由があれば立ち退きを請求することは可能です。ただし、正当な理由によるものであったとしても、拒否された場合には退去を強制することはできません。借主の権利が借地借家法で保護されているためです。
立ち退き交渉において大切なことは、借主の理解が得られるよう丁寧かつ慎重に話を進めることです。借主に問題がある場合も、高圧的な態度で立ち退きを迫るべきではありません。いつまでも居座られたり、高額な立ち退き料を請求されたりと、さらにこじれてしまう可能性があります。
立ち退きで必要な正当事由
立ち退きの問題に関して、まずオーナー様は借地借家法の「正当事由」という考え方を踏まえる必要があります。正当事由とは何か、正当事由として認められるケースについて解説します。
正当事由とは
正当事由とは、貸主が借主に対して立ち退きを要求する際に必要となる法律上の理由です。
正当事由について定めている借地借家法28条によると、正当事由の存在が確認されなければ、貸主は立ち退きを要求することができません。
「建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」
正当事由が認められる場合でも、借主がただちに退去するわけではありきません。借主が立ち退きを拒否し裁判になった場合、貸主と借主の双方の意見を聞き、裁判所が最終的に判断をくだします。
信頼関係の破壊
仮に借主に家賃滞納などの債務不履行があった場合でも、賃貸借契約の信頼関係の破壊がなければ、立ち退きは認められません。
信頼関係の破壊とは、賃貸借契約において借主が重大な契約違反を行い、その結果、貸主との信頼関係が損なわれた場合を指します。
具体的な例として、以下の行為が挙げられます。
- 無断譲渡、転貸
- 家賃の長期間滞納
- 近隣住民への迷惑行為(騒音や悪臭など)
例えば、借主が家賃を長期間滞納している場合、貸主は経済的な損失を被ります。第三者への無断転貸は、賃貸借契約の内容に違反していることになりますし、近隣住民からのクレームが多い場合は、貸主の物件の評価や管理にも影響を与えるでしょう。
信頼関係の破壊による立ち退きが認められるには、債務不履行が発生しているだけでは足りません。何ヶ月にもわたる家賃の支払い督促や、書面による迷惑行為の改善要請などに応じず、「今後継続的に物件を使わせられない」状況を具体的に示す必要があります。
立ち退き料の支払い
貸主が借主に対して、契約の更新を拒絶したり契約解除を求めたりする際、原則として上記で挙げた正当事由が必要ということは先述のとおりです。しかし、十分な正当事由がない場合や、借主がなかなか交渉に応じない場面では、貸主が立ち退き料を支払うことによって、正当事由が認められるケースもあります。
立ち退き料は、法律上は貸主側の正当事由を補完するもの=正当事由の一部と見なされます。立ち退き料はあくまでも正当事由を補うものであり、「立ち退き料さえ支払えば正当事由がなくても明け渡してもらえる」というわけではない点には注意しなければなりません。
借地借家法は借主の権利が強く守られる法律であるため、正当事由のみでの立ち退きが認められるケースは稀です。多くの場合は正当事由があったとしても、借主から立ち退き料を要求されることも考えられるということは知っておきましょう。
立ち退きの流れ
立ち退き請求の基本的な流れは次のとおりです。
- 借主への意思表示
- 条件交渉
- (合意の場合)任意の明け渡し
- (交渉決裂の場合)調停
- (調停不成立の場合)裁判
それぞれ具体的に解説します。
1.借主への意思表示
まずは貸主から借主に対し、書面をもって「賃貸借契約を解除したい」という意思表示を行います。貸主側の事情による立ち退き要求の場合、借地借家法の第26条に定められているとおり、次の更新日の1年前から6ヶ月前までに通知しない場合は契約解除ができません。
(建物賃貸借契約の更新等)
第二十六条 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
借主側にも事情があるため、できるだけ早期に通知するようにしましょう。立ち退きに理解を示したとしても、あまりに準備期間が短いと不満や反発が生じてしまいます。感情のこじれは条件交渉に影響するので、十分注意しましょう。
2.条件交渉
書面で通知したのち、対面での条件交渉を行います。交渉の際は立ち退きの理由や明け渡しの時期を説明するとともに、立ち退き料などの条件を伝えます。借主は立ち退きによって、住まいだけでなくライフスタイルも変えなくてはなりません。通勤や通学にかかる時間、買い物の利便性なども考慮したうえで現在の部屋を借りていることでしょう。
借主の事情や要望にできるだけ応えられるように準備が必要です。
ただし、立ち退き要求の原因が借主側にある場合は毅然とした態度を見せることも大切です。事前に賃貸管理会社や不動産関係に強い弁護士などに相談することをおすすめします。
3.(合意の場合)任意の明け渡し
交渉の結果、合意が得られたら「合意書」を作成します。以下のように、交渉で決まった内容を細かく記載していきましょう。
● 明け渡しの時期
● 立ち退き料の額
● 立ち退き料の支払い時期
● そのほかの条件
● 合意の日付
● 貸主・借主の署名
なお、後のトラブルを避けるために、合意書は貸主・借主双方で保管するのが一般的です。
4.(交渉決裂の場合)調停
交渉で折り合いがつかない場合は簡易裁判所に調停を申し立て、第三者である調停委員を交えて話し合いでの解決を目指します。
調停の申し立ては原則として、相手方の住所地である物件所在地を管轄する簡易裁判所で行います。調停が始まると指定された日に裁判所に出向かなくてはならず、物件が遠方の場合などは特に負担が大きくなりがちです。なるべくなら交渉の段階で合意が得られるよう、事前に賃貸管理会社や不動産問題に強い弁護士などに相談することをおすすめします。
5.(調停不成立の場合)裁判
調停不成立となった場合には裁判に移行し、明け渡し訴訟が提起されます。裁判で審理されるのは、立ち退きを要求する正当事由があるかという点です。立ち退き料を支払う場合は、金額が妥当かどうかといった点も審理されます。判決は「部屋の明け渡し」か「立ち退き請求の棄却」のいずれかです。部屋の明け渡しを命じられても借主が住み続ける場合は、「強制執行」の手続きを行うことになります。
なお、家賃滞納など借主側に問題があるケースで、貸主側の主張が認められるとはかぎりません。先述のとおり、契約違反だけでなく「信頼関係が破壊された」と法的に評価される必要があり、貸主の要求が必ず認められるという保証はないため、多くは判決前に和解を勧められるでしょう。
立ち退きでトラブルになる事例
立ち退き交渉がまとまらないと最終的には裁判で決着をつけることになりますが、借主保護の視点から、裁判でも貸主が主張する正当事由が認められないことがあります。ここでは、立ち退き交渉でトラブルになりやすい事例と対策について解説します。
建物の問題による立ち退き交渉
建物の老朽化が激しく耐震性に問題があると判断し、建て替えや解体のために立ち退きを要求するのは正当事由のように思われますが、判決で正当事由とみなされないケースは珍しくありません。
日本は地震大国といわれていますが、建物が倒壊するほどの大地震がいつ発生するかは分からず、早急に立ち退きを迫る理由にはならないという考え方です。過去の判例では貸主の主張が退けられ、耐震補強工事の実施が命じられたケースもあります。
建物の補強・修繕にかかる費用の見積もりを取り、建て替えと比べてどちらが安いか数値化することをおすすめします。建て替えのほうが大幅に費用を抑えられる場合、正当事由として認められるかもしれません。基本的に建物の問題による立ち退きの場合は、貸主から立ち退き料の支払いが必要になることが多いといえるでしょう。
収益アップのために必要な建て替え工事による立ち退き交渉
市場のニーズを反映させたリフォームは、入居率の向上や家賃アップにつながります。状況によっては大掛かりなリノベーションや建て替え工事が必要になることもあるでしょう。建て替え工事の場合は貸主側の事情であるため、立ち退き料を支払う意思を示したうえで、賃貸経営が逼迫している現状を正直に話すなど、借主に納得してもらえるような丁寧な説明が必要です。
ただし、現状では空室や賃料低下により収益が下がっているうえ、建て替えに多額の費用がかかり、さらに立ち退き料と出費が続きます。できるだけスムーズに交渉が進むよう、説明の際に賃貸管理会社に同行してもらうなどの工夫をするとよいでしょう。また、転居先を探すのに協力するなど借主に寄り添う姿勢を示すことも大切です。
借主の家賃滞納による立ち退き交渉
家賃滞納は分かりやすい契約違反ですが、即立ち退きというわけにはいきません。先述のとおり、「信頼関係が壊された」とみなされるのは一定期間の滞納が続いた場合となります。悪意で滞納したのではなく、病気や失職で経済的に困っている可能性もあります。まずは借主の事情を聞き、連帯保証人に連絡する、分割払いに応じるなどして少しでも回収できるようにするとよいでしょう。
近年は家賃滞納に備え、契約時に「家賃保証会社への加入」を条件にするケースが増えています。家賃保証会社は滞納が発生した際に家賃を弁済し、後に借主から回収します。貸主は家賃を確実に受け取れるうえ、回収に苦労することもありません。借主側にも連帯保証人を立てなくてもよいというメリットがあります。家賃滞納トラブルを減らすためにも、検討してみるとよいでしょう。
近隣住民への迷惑行為による立ち退き交渉
近隣住民への迷惑行為を行う借主に対する立ち退き要求は、正当事由として認められることが多いです。裁判に備えて迷惑行為の証拠をしっかり集めておきましょう。
ただし、迷惑行為による立ち退き交渉の場合は交渉に特に時間がかかることが多いので、注意してください。アパートやマンションの場合は交渉中にほかの部屋からの退去が続き、空室が増えてしまうかもしれません。また、近隣住民から貸主に対して損害賠償請求される可能性もあります。
基本的に立ち退き料を支払う必要はありませんが、大きなトラブルに発展する前に立ち退き料を支払って出て行ってもらうのも1つの考え方といえます。話がまとまらないようであれば、弁護士を入れて交渉することも検討してください。
なお、共用部分や道路にまでゴミがはみ出しているゴミ屋敷問題については、近隣住民からクレームが出ていても貸主がゴミを処分することはできません。ゴミも借主の所有物であり、他人が勝手に処分することは「所有権の侵害」にあたるため、消防署や保健所など行政機関に相談しましょう。
オーナーの自己居住による立ち退き交渉
「自分の住まいにしたい」「自分の子ども夫婦を住まわせたい」などの自己居住による立ち退き要求は貸主側の都合であるため、立ち退き料の支払いは必須といえます。立ち退きの理由を丁寧に説明し、借主の事情を考慮したうえで立ち退き料や明け渡し希望日などの条件を決めていきましょう。借主の希望にできるだけ歩み寄る姿勢を見せることが、交渉をスムーズに進めるコツです。
立ち退き料の相場
立ち退き料は、貸主からの請求によって借主が物件を立ち退くことになった際、貸主から支払われる費用のことです。立ち退き料の金額については法律上の定めがなく、一般的には家賃の6ヶ月分程度が相場とされています。立ち退き料を決める要素としては、次のようなものが挙げられます。
● 引越し代、転居先の初期費用(敷金、礼金、仲介手数料など)
● 保険料(火災保険、地震保険など)
● インターネットや電話回線などの移転費用
● 精神的苦痛への慰謝料(住み慣れた場所を離れる、引越しでさまざまな手続きが発生するなど)
● 経済的損失(店舗や会社への営業補填)
相場はあくまで目安であり、立ち退き交渉に至った経緯や状況によってはこれより高くなることもあり、反対に安くすむこともあります。過去の判例なども調べ、まずは妥当と思われる金額を提示して話し合いを進めるようにしてください。
立ち退きをスムーズに進める方法
交渉をスムーズに進めるために、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 借主と良好な関係を築いておく
- 入居者が少なくなったタイミングで交渉を始める
- 書面でやり取りする
- 立ち退き交渉に強い弁護士を介して交渉する
- 立ち退き理由を明確にする
- 立ち退き料の予算を決めておく
- 譲歩できるポイントをつくっておく
ここからはそれぞれの内容を具体的に解説します。
借主と良好な関係を築いておく
立ち退き交渉をうまく進められるかどうかは、借主との関係性が大きく影響します。良好な関係を保てるように、日頃からこまめにコミュニケーションを取ることを心掛けましょう。問い合わせやクレームに迅速に対応することでトラブルに発展しにくくなるうえに、話し合いで双方の条件を譲歩しつつ進められる可能性が高くなります。お互いの信頼関係を築いておくことが大切です。
なお、借主とのやり取りを賃貸管理会社に一通り任せている場合は、賃貸管理会社と借主との間で関係性を築けているか確認する必要があります。借主が賃貸管理会社に何らかの不満を抱えていると、立ち退き交渉がうまく進まず貸主に不利な状況になることも考えられます。
立ち退きの有無にかかわらず、普段から賃貸管理会社の業務姿勢に目を光らせ、問題があると感じた際には委託先の見直しを行いましょう。
入居者が少なくなったタイミングで交渉を始める
一棟アパートやマンションなど複数戸の賃貸経営を行っている場合には、入居者が少なくなり、空室が目立つようになったタイミングで立ち退き交渉をスタートさせるのがよいでしょう。
入居者数が多ければ多いほど立ち退き料の支払いやトラブルの種も増えてしまいますが、対象が少なければ交渉の手間や立ち退き料の負担を少なく抑えられます。建て替えの検討を始めた時点で新規の入居者募集をストップし、自然に退去していくのを待つのが無難です。
ただし、空室が増えればそれだけ減収となり、建て替え資金などに影響する可能性があります。立ち退き料も含めて建て替えなどにかかる費用を試算し、立ち退き交渉を始める空室率の目安を決めておくようにしましょう。状況にもよりますが、50%以上の空室率で交渉を始めることが多い傾向にあります。
書面でやり取りする
口頭でのやり取りは記録に残らず、後になって「いった・いわない」の水掛け論に発展しがちです。通知や交渉内容は、書面やメールなど記録として残せるものを利用しましょう。
交渉期間が長引くと細かな部分が曖昧になることがあります。話し合いのたびに内容を「覚書」として残しておくと、不要なトラブルを避けられるのでおすすめです。当事者間で内容を共有するのが望ましいので、借主にも書面あるいはメールで送付しましょう。
なお、話し合いの内容を伝えるだけだと高圧的な印象を与えてしまうかもしれません。話し合いの時間を割いてくれたことに対するお礼など、借主に対して一文添えると柔らかい印象を与えられるでしょう。
立ち退き交渉に強い弁護士を介して交渉する
入居中に近隣からクレームが入るなどの問題がなかった借主でも、立ち退き交渉となれば感情的になり揉めてしまうことも予想されます。考え方や意見は人それぞれのため、立ち退き交渉のノウハウや経験が豊富な弁護士を介して交渉すれば、展開を予測しつつ対策が取れます。その結果、貸主・借主双方が納得しやすい条件で進められる可能性が高くなるでしょう。
ただし、はじめから弁護士が登場すると、借主に威圧的な印象を与えてしまうかもしれません。はじめは弁護士にアドバイスをもらいながら貸主本人が交渉し、途中で弁護士にかわってもらうのも効果的な方法といえるでしょう。
立ち退き理由を明確にする
先述のとおり、貸主が借主に立ち退きを要求する際は正当事由が必要とされています。まずは立ち退きの理由を明確にして、借主に納得してもらうことが大切です。立ち退きの必要性を借主に理解してもらえればスムーズに話を進められ、条件に折り合いをつけてまとめられるでしょう。
借主に納得してもらえるように立ち退きが必要な理由を説明し、借主の疑問・要望などにもしっかりと耳を傾け、真摯に対応することが大切です。
立ち退き料の予算を決めておく
先述した立ち退き料の相場を参考にしながら、あらかじめ予算を決めておくようにしましょう。特に貸主側の事情で立ち退きをお願いする場合には、借主が強気の条件を出してくる可能性があります。建て替えやリノベーションなど今後の予定も踏まえ、支払える立ち退き料の上限を決めておくようにしてください。
譲歩できるポイントをつくっておく
借主にもそれぞれの考えや事情があります。立ち退き交渉が貸主の希望どおりに進むことは少ないと考えておいたほうが無難です。しかしながら、借主の要望にすべて応じることもできません。話し合いをスムーズに進めるには、条件交渉の前にどこまで譲歩できるかを決めておくことが大切です。
立ち退き料の上乗せを要求された場合の上限や、明け渡しの延長期限などをあらかじめ決めておくと、無理な要求に悩まずにすむでしょう。
また「引越しが面倒」という言い分に対しては、借主側の手間を少なくすることで合意が得られる可能性があります。賃貸管理会社の協力を得て今よりも条件のいい物件を紹介したり、転居先の初期費用に充てられるように立ち退き料の一部を先払いしたりといった工夫によって、交渉がスムーズに進むかもしれません。
立ち退きトラブルを回避する定期借家契約
借主に立ち退きを求めた際にトラブルが起こりやすい理由として、民法・借地借家法により借主の権利が強く保護されていることが挙げられます。
そこで立ち退きトラブルを回避する賃貸借契約として、オーナー様が検討すべき契約形態のひとつに、定期借家契約というものがあります。
定期借家契約とは
定期賃貸借契約は、「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」にもとづき、2000年から始まった契約形態です。
従来の普通借家契約では、貸主は正当事由がなければ契約を解除できないため、マナーの悪い借主を追い出せなかったり、退去してもらうために多額の立ち退き料を支払わなければならなかったりと、貸主側に不利な状況がありました。
普通借家契約の問題点を解消するために施行されたのが、契約期間満了とともに契約が終了する定期賃貸借契約です。定期借家契約で物件を貸し出すことで、賃貸期間や収益の見通しが明確になり、合理的な賃貸経営ができるようになりました。
定期借家契約と普通借家契約との違い
定期賃貸借契約と普通借家契約には、契約方法や更新の有無、契約期間の定めなどに明確な違いが存在します。2つを比較しながら、定期借家契約が立ち退きトラブルを防ぐために有効とされる理由を解説します。
契約方法
定期借家契約では、口約束での契約は認められておらず、必ず公正証書などの書面で契約を締結しなければなりません。(借地借家法38条1項)。加えて、契約時には「契約の更新がなく、期間満了で終了する」ことを賃借人に書面で説明する義務があります(同法38条3項)。
普通借家契約は書面だけでなく、口頭でも契約が成立します。ただし、紛争防止のためにも、契約書を作成して条件を明確にすることが推奨されています。
更新の有無
定期借家契約は、契約期間満了により終了し、更新されることはありません。契約期間満了後に引き続き物件を賃貸借する場合は、同じ貸主と借主の間で再契約を結ぶ必要があります。
普通借家契約では貸主は正当事由がない限り更新を拒絶することができません(借地借家法28条)。契約期間が満了した場合は、借主から解約の申し出がない限りは自動的に更新されます。
1年未満の契約期間
契約期間は貸主と借主による協議のうえ決定しますが、1年より短い契約期間が有効とされるかは、定期借家契約か普通借家契約によって異なります。
定期借家契約では、契約期間が1年未満であっても有効されています。契約時に契約終了日を明確に定め、書面を持って借主に明確に示すことで、更新なく契約を終了させられます。
それに対して普通借家契約では、1年未満の契約期間を定めた場合、法律上は期間の定めのない賃貸借契約とみなされます(借地借家法29条)。そのため、契約書上で契約期間を定めていたとしても、終了時期に明け渡しを求めることができません。
借主からの中途解約
定期借家契約では、床面積が200㎡未満の居住用住宅であり、やむを得ない事情がある場合に限り、借主からの中途解約が認められると定められています。
普通借家契約では、当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、民法上は賃借人は3ヶ月前に申し入れることで解約できます(民法617条1項2号)。借主からの中途解約に関しては、別途契約書上で特約を定めている場合は、特約の内容に従うことが前提です。
立ち退きが予想される場合は定期借家契約が有効
先述した通り、普通借家契約では、契約期間が終了しても正当事由がなければ更新を拒絶できないため、立ち退きに関するトラブルが発生しやすくなります。
そのため、建て替えや大規模修繕が予定されている場合は、定期借家契約の利用を検討する必要があります。
定期借家契約では、契約期間が1年未満でも有効であり、契約の更新もないため、必要なタイミングで確実に物件の明け渡しを受けられるようになります。
また、期間満了で契約が終了することを事前に書面で説明する義務があるため、借主も契約終了後の引越しや移転の予定を立てやすくなるというのは、借主にとってもメリットでしょう。
立ち退きに関する相談先
立ち退き交渉はスムーズに進まないことが多く、貸主・借主ともに精神的負担が大きくなりがちです。万が一のことを想定して相談できる場所があることを知っておくと、精神的負担を軽減できるのではないでしょうか。ここでは、立ち退き全般の相談先として次の4つを紹介します。
● 弁護士
● 東京共同住宅協会
● ちんたい協会
● 賃貸管理会社
以下にてそれぞれのポイントを押さえておきましょう。
弁護士
立ち退き交渉を行えるのは、貸主本人または弁護士にかぎられます。弁護士に依頼すれば立ち退きに関するすべての業務を代行してもらえるので、精神的負担は大幅に軽減できるでしょう。立ち退き交渉に強い弁護士を選ぶことで、スムーズかつ貸主に有利な条件で進められる可能性が高まります。ただし、弁護士報酬などの費用が発生するため、ある程度の費用がかかる点には注意してください。
身近に思いあたる弁護士がいない場合には、「法テラス」を利用してみましょう。法テラスでは、問い合わせ内容に応じて法制度に関する情報と、相談機関・団体(弁護士会、司法書士会、地方公共団体の相談窓口など)に関する情報を無料で提供しています。
東京共同住宅協会
東京共同住宅協会は1969年に設立された公益団体で、民間賃貸住宅経営者・入居者・住宅関係企業への支援を行っています。賃貸トラブルなど不動産全般の相談に対し、専門性の高い相談員が無料で電話相談に対応します。
デリケートな要素が多い立ち退きについては専門の資格を持つ相談員から借主(入居者様)にどのようなアプローチをすればよいのかアドバイスを得られるので、なるべく費用をかけずに相談したい場合には積極的に活用するとよいでしょう。
ちんたい協会
全国賃貸住宅経営者協会連合会、略して「ちんたい協会」は1969年11月に国土交通省(旧建設省)の許可を得て設立された団体です。貸主・借主を対象に賃貸住宅に関する無料のコールセンターを開設しており、一般的な商習慣の情報提供などを行っています。
賃貸借トラブルについては今後の対応などのアドバイスがもらえますが、相談員は法律の専門家ではありません。そのため、ちんたい協会への相談は問題整理に役立てて、実際の解決は弁護士に依頼するといった使い方がおすすめです。
賃貸管理会社
物件管理に関するオーナー業務を賃貸管理会社に委託している場合は、弁護士よりも前に賃貸管理会社に相談してみてください。実際に立ち退き交渉を行うのは貸主ですが、日頃から借主と直接やり取りをしているのは賃貸管理会社の担当者です。
借主の状況や人となりを把握しているため、交渉の進め方について具体的かつ効果的なアドバイスが期待できるでしょう。立ち退きが必要な借主の転居先を探す手伝いをしてくれる賃貸管理会社もあります。弁護士を通したやり取りに比べると借主にとっても安心感があり、条件交渉がスムーズに進む可能性が高いといえます。
まとめ 立ち退きトラブルを避けるなら信頼できる賃貸管理会社に任せよう
賃貸経営を続けていくと、やむを得ず立ち退きを検討することがあるかもしれません。立ち退き交渉は貸主・借主双方にとって負担が大きなものです。スムーズに進められなければトラブルに発展し、立ち退きにかかる費用も膨大になる可能性があります。なるべく穏便に進めるためにも、ぜひ賃貸管理会社を利用してください。
【リロの不動産・リロの賃貸】では家賃滞納や迷惑行為などのリスクを低減するため、迅速かつ厳格な入居者審査を実施しています。入居者様のお困りごとを解決するためにアンケートを行うほか、定期的に『第三者による覆面調査』と『グループ各社による自主調査』を行い、迷惑行為がないかなどをチェックしつつ、顧客満足度の維持向上に努めています。
また、建て替えの際には立ち退き交渉のアドバイスはもちろん、低コストながら入居者様のニーズをふまえた費用対効果の高い、リフォーム・リノベーション・建て替え工事などのご提案が可能です。気になる方は【リロの不動産】へお気軽にご相談ください。
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この記事を書いた人
秋山領祐(編集長)
秋山領祐(編集長)
【生年月日】昭和55年10月28日。
【出身地】長野県上田市。
【趣味】子供を見守ること。料理。キャンプ。神社仏閣。
【担当・経験】
デジタルマーケティングとリブランディングを担当。
分譲地開発のPMや家業の土地活用などの経験を持つ。
リノベした自宅の縁の下に子ども達の夢が描かれている。