【事例付き】原状回復とリフォーム費用を解説! トラブル回避と収益改善

2023.12.19

賃貸アパート・賃貸マンションを所有していると、原状回復は入居者様の入れ替わりがあるかぎり必ず発生します。ただ、賃貸経営をするうえで原状回復の費用負担は、トラブルになりやすいポイントでもあるため注意が必要です。

実際に原状回復を実施する際はトラブルを避けるだけではなく、ちょっとしたリフォームを追加することで物件の価値を高めることが可能です。この記事では原状回復とリフォーム費用について詳しく解説するとともに、賃貸経営の収益性を改善する事例も紹介します。

賃貸住宅の原状回復とは

賃貸住宅の原状回復とは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか。基本となる国土交通省が定めている定義を見ていくとともに、入居者様側に求められる義務、原状回復費用負担の特約についても解説します。

原状回復の定義

国土交通省は原状回復における費用負担の考え方などについて、賃料が市場家賃程度の民間賃貸住宅を想定し、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を策定しています。ガイドラインの原状回復の定義は「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」です。

民法では「契約自由の原則」があり、契約の当事者双方が合意すれば賃貸借契約も成立します。契約で入居者様が原状回復費用を負担するという内容だった場合、従来は入居者様に過度な費用負担を求めるケースもありました。しかし、ガイドラインでは、原状回復が借りた当時の状態に戻すことではないと明確に規定しています。

入居者様に費用負担の責任があるのは故意や過失、善管注意義務違反などで損耗・毀損した部分だけだという点がポイントです。経年変化や通常損耗による修繕費用は賃料に含まれるとされ、オーナー様が費用を負担しなければなりません。ガイドラインではトラブルを未然に防ぐために原状回復を入居時の問題と捉え、双方が納得したうえで契約を締結することが有効だと提言しています。

入居者様には善管注意義務がある

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、善管注意義務違反という言葉が出てきます。善管注意義務とは「善良なる管理者の注意義務」という民法の原則です。

民法400条では「債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない」との規定があります。

出典:e-gov 民法(明治二十九年法律第八十九号)

賃貸借契約においては、入居者様が住む部屋が民法400条で規定されている特定物にあたります。賃貸アパート・マンションでは、居室も含めた物件の所有者はあくまでもオーナー様です。入居者様が生活するにあたって、自分の所有物ではないから注意を払わなくてもいいというわけではありません。

客観的に見て当然要求される程度の注意を払って使用し、日常的な手入れや清掃なども行う必要があります。入居者様も借りている部屋を使用する際、雑な扱いをしてはいけないということです。もし、通常の使用を超えるような損耗や毀損を発生させた場合は、入居者様側に原状回復の義務があります。賃貸借契約を結ぶときは、入居者様にも善管注意義務があることを周知しておくことが大切です。

原状回復費用負担の特約

原状回復費用負担については、賃貸借契約時に特約を設けるのが一般的です。賃貸借契約で特約を設けること自体、特に問題はありません。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」でも、原状回復の問題を出口として捉えず、入口として捉えるよう示唆しています。

賃貸経営では、退去時になって入居者様が「原状回復費用を払わない」「払う必要がないのではないか」と主張するなどのトラブルがありえます。トラブルを未然に防ぐためにも、入居者様に負担してもらう分に関しては、特約を設けてはっきりさせておくことが重要です。

特約の例としては、特にトラブルになりやすいハウスクリーニング費用が挙げられます。賃貸借契約書に原状回復における貸主と借主の負担割合を記載し、双方の合意のもとで結ばれた契約であれば、基本的に契約に盛り込まれた内容分の費用を入居者様に負担してもらうことが可能です。ハウスクリーニング費用の場合は、定額としてあらかじめ決めておくといった方法があります。

原状回復はトラブルに注意

国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を定めたのも、そもそもトラブルが多い退去時における原状回復のトラブル未然防止のためでした。原状回復費用の負担をめぐっては、実際にトラブルになることがあるため注意が必要です。

原状回復の費用負担をめぐるトラブル回避については、以下の記事をご参照ください。

賃貸住宅の原状回復とは? トラブルになりやすい費用負担の考え方

国民生活センターへの原状回復トラブル相談件数

賃貸住宅の退去時、入居者様とオーナー様との間で原状回復工事の費用負担や敷金返還をめぐってトラブルになるケースは多々あります。実際に賃貸住宅の原状回復トラブルで独立行政法人 国民生活センターに寄せられる相談件数は、毎年1万件を超えています。

年間相談件数は2020年で1万3,364件、2021年が1万4,111件、2022年が1万2,856件でした。2023年2月24日からは集計方法が変わりましたが、2023年5月31日時点で前年同期の1,535件を上回る1,662件の相談が寄せられています。

具体的な相談内容としては、「不要と説明されていた退去時のルームクリーニング代を請求された」「10年以上住んだアパートの退去時にクロス張り替えなどの高額な原状回復費を請求された」などがありました。「入居時すでに傷ついていた床等の原状回復も求められた」「壁紙のわずかな傷で全面張り替えの費用を請求された」などの相談もあります。

出典:独立行政法人国民生活センター「賃貸住宅の敷金・原状回復トラブル」

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

過去には原状回復をめぐって訴訟に発展したこともあり、1998年に国土交通省が取りまとめたのが先述の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。目的は原状回復に関する契約関係や費用負担のルールのあり方を明確にし、賃貸借契約の適正化を図ることでした。

1998年にガイドラインが公表されたあとも、トラブルは決してなくなったわけではありません。ただ、原状回復についてオーナー様、入居者様ともにあらかじめ理解しておく一般的なルールを示したものとしてガイドラインが利用されるようになっています。

2000年には民法が改正されたことにより、621条で「賃借物を受け取ったあとにこれに生じた損傷」があれば損傷を現状に復する義務を負うという賃借人の原状回復義務がはっきりと定義されました。ただし、通常の使用による損傷や経年変化、賃借人の責めに帰することができない事由によるものは除かれます。ガイドラインも2023年には再改訂版が出されています。

出典:e-gov 民法(明治二十九年法律第八十九号)

「通常の使用」の考え方

原状回復の義務を負うのが入居者様なのかオーナー様なのか、その判断の一つになるのが「通常の使用」にあたるかどうかです。ガイドラインでは通常の使用について4つのパターンで説明しています。

国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」より

(A)は賃借人が通常の住まい方や使い方をしていても発生すると考えられるものです。(B)は住まい方や使い方次第で発生したりしなかったりすると考えられるもので、明らかに通常の使用等の結果とはいえないものが分類されています。

3つめの(A+B)は基本的にはAではあるものの、賃借人の手入れや管理が悪かったために損耗などが発生したり拡大したりしたと考えられる場合です。4つめの(A+G)も基本的にAと同等ですが、建物価値を増大させる要素が含まれるものと定義しています。

以上のうち、入居者様に負担義務があるのは(B)と(A+B)です。(A)は経年変化や通常損耗と考えられ、賃貸借契約では賃料でカバーされてきたはずと考えられます。また、そもそも通常損耗や経年変化によるものは入居者様に責任はないとされる(A)に、価値を上げるような手を入れた(A+G)についても入居者様は負担義務を負いません。

(B)は入居者様の故意や過失、善管注意義務違反による損耗等が含まれる場合があり、(A+B)にも損耗等が拡大した場合は善管注意義務違反がある可能性も考えられます。そのため、ガイドラインでは(B)と(A+B)については入居者様に原状回復義務が発生し、負担義務もあるとしています。

出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について

原状回復工事費用の相場

次に原状回復工事の費用相場がいくらくらいになるのか、部位別に確認していきましょう。フローリングの張り替え工事は、1畳あたり2~6万円です。フローリングに傷やへこみがあれば、状態に応じて8,000円から6万円程度の補修費用もかかってきます。

畳の交換費用は1畳あたり4,000円から3万5,000円、カーペットやタイルカーペットの張り替えは1m2あたり8,000円から1万5,000円程度です。壁紙(天井)のクロス張り替え工事は、1m2あたり750~1,500円ですが、工事の状況によっては廃材処分費がかかる場合があります。

トイレは温水洗浄便座の設置などで便座のみ交換する場合は5~10万円程度ですが、便器を丸ごと交換すると10~30万円かかります。水回りの換気扇の工事は部分的な修理で済む場合ならば8,000円から2万円程度、浴室やトイレなどの換気扇を交換する工事になると3~15万円になります。キッチンのレンジフード交換では10~20万円ほどが相場です。

サッシの交換については1ヶ所あたり3~5万円、網戸の張り替えや交換にかかる費用は1枚当たり3,000~5,000円です。柱の補修は1~6万円程度ですが、傷が多いなどで交換が必要な程度になるとさらに高く5~10万円ほどかかる場合があります。

ハウスクリーニング費用はワンルームから2LDKの間取りで、1万5,000円から7万円程度です。ただし、見た目よりも劣化が進んでいる場合や、傷や汚れが一部であっても同じ材料がなかったり色や材質の差がでてしまったりする場合は、全面張り替えになるケースもあります。

施工範囲が狭くても工事をしてくれる職人の出張費がかかり、想定している以上の費用が発生する可能性もあるため、相場は目安として考えておいてください。

原状回復費用の相場については、こちらの記事も参照ください。

賃貸住宅の原状回復とは? トラブルになりやすい費用負担の考え方

原状回復工事+ミニマムリフォームで空室改善

入居者様が日々気をつけて生活していても、時間が経てば劣化してくる箇所がでてきても不思議はありません。次の入居者様に快適に生活してもらうためにも、原状回復工事は入居者様が退去した際、必ず実施する必要があります。

原状回復工事の実施時、ただ補修が必要な部分を修繕するだけではなく、グレードアップの要素があるミニマムリフォームを行うことで新たな入居者様を確保しやすくなり、賃料低減スピードを遅らせることができます。

ミニマムリフォームしながら、イメージを一新する変更を加えることで入居者様の獲得につながることもあるでしょう。例えばデザイン性を意識したリフォームや、入居者様のニーズに応えたリフォームなどです。

実際に原状回復工事にミニマムリフォームを追加することで、空室が改善された事例があります。ターゲットを意識したミニマムリフォーム、学生が多い地域ならではのリフォームに加え、ミニマムリフォームで1年以上の空室が即埋まったケースの具体例を紹介します。

また、空室の原因を解決し、満室経営につながる戦略的なリフォームについては、以下の記事をご参照ください。

不動産投資成功の鍵はリフォームにある! 戦略的なリフォーム投資で資産価値向上を

満室経営にする賃貸経営リフォームとは? 4つのリフォーム事例を紹介

空室の原因を解決する『4つの空室対策』とは?14種類の手法を徹底解説!

入居者ターゲットを意識した原状回復工事+ミニマムリフォーム

東京都杉並区にある築年数17年、間取り1Kの物件の例です。もともと居室スペースが5帖というコンパクトな部屋だったことから、ミニマムリフォームでは若年層をターゲットにしています。

キッチンと居室スペースにブルー系のアクセントクロスを採用し、建物の外観との統一感を出せる工事を行いました。また、フロアタイルはナチュラル系の明るいカラーに変更しています。角部屋であったことから採光部分が多く、明るいフロアカラーにアクセントクロスのブルーが際立つ印象の空間にリフォームできました。

同様にトイレスペースにもアクセントクロスを取り入れたことで、おしゃれな空間になっています。加えてトイレスペースの上部や洗濯機置き場などには、利便性がアップする収納棚も設置しました。アクセントクロスを使ったリフォームはコストを抑えられるメリットがありながら、若年層のニーズを踏まえたおしゃれな空間を実現できるおすすめのミニマムリフォームです。

出典:賃貸経営HACK「入居者ターゲットを意識したアイデア室内ミニマムリフォームで空室改善」

学生エリアならではのリフォームで3部屋の空室を満室に

2例目は東京都多摩市にある1棟アパートのリフォームです。それまでは入居者募集や物件の管理を地場の不動産会社に依頼しており、リフォームの提案は受けたことがありませんでした。もともと床材に暗いイメージのものを使用していましたが、学生エリアならではのニーズを取り入れたいというオーナー様の要望を受けてリフォームを実施しています。

まずは古いイメージだった床材やクロスを変更し、白を基調とした壁にはアクセントクロスを採用したことで居室の雰囲気が明るくなりました。そのほか学生の入居者ニーズが高い室内干しや洗浄便座、TVドアホンを新たに設置しています。

12戸あるうち3戸の空室が出ていましたが、結果的に学生を中心とした若年層に好まれる部屋へと変わりました。リフォーム工事を進めるとともに募集対応も行ったことで、短期間のうちに空室が埋まりました。オーナー様からは、できれば1室あたりの費用も抑えたいとの要望があり、対策費用は35万円に収まっています。

出典:賃貸経営HACK「3部屋の空室を満室!学生エリアならではのリフォームで入居率UP!」

ミニマムリフォームで1年以上の空室が即成約

3例目の物件は、大阪府大阪市にある鉄筋コンクリート造の1棟マンションのリフォームです。2DKが4戸と1DKが2戸ある築23年の物件ですが、1年以上空室が埋まらなくて困っているとのことでリフォームを実施することになりました。

長期間空室のままだったこともあり、まずは予算30万円の限られた選択肢の中で効果が出やすいリフォームを行っています。対象の部屋は、一度オーナー様がリフォームを行ったうえで募集をしていました。ただ、DK部分と洋室部分の床で柄が違うなど統一感がない空間であったため、ミニマムリフォームでは洋室とDKの床の柄を統一し、DKにはアクセントクロスも取り入れています。

また、旧式の洗面台をシャンプードレッサーに入れ替えるとともに、脱衣所とトイレのクッションフロアも張り替えました。以上のミニマムリフォームを実施してインターネットに掲載するとすぐに反響があり、募集開始から2日後には申し込みが入っています。

出典:賃貸経営HACK「1年以上の空室がミニマムリフォームで即成約!募集開始から2日後の申込」

まとめ

入居者様が退去する際、次の入居者様を迎える前には原状回復工事を行う必要があります。ただ、退去時の原状回復はトラブルになりがちであるため、オーナー様にとって最新の注意を払うポイントになります。

他社さんの事例になりますが、過去には訴訟や裁判にまで発展したケースもあり、国土交通省では原状回復についてガイドラインを発表しています。ガイドラインをもとに、まずは原状回復に関する考え方をしっかりふまえておいてください。

紹介した実例のように、入居者様が入れ替わるタイミングで原状回復工事にプラスしてミニマムリフォームをすることで、空室改善や収益改善を図ることも可能です。こうした提案をしてくれる賃貸管理会社ならば心強いでしょう。

信頼できる賃貸管理会社ならば、原状回復工事やリフォーム工事だけで終わらず、入居者募集や賃貸仲介業務と連動する適切な入居者管理も行ってくれるため、トラブルを抑えながら、収益向上の効果を期待できるでしょう。

【リロの不動産】は賃貸経営での困りごとをトータルでサポートしています。原状回復からリフォーム・リノベーション、大規模修繕にまで対応し、多くの管理戸数を保有する賃貸管理の実績を保有している【リロの不動産】にご相談ください。

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この記事を書いた人

秋山領祐(編集長)

秋山領祐(編集長)

【生年月日】昭和55年10月28日。
【出身地】長野県上田市。
【趣味】子供を見守ること。料理。キャンプ。神社仏閣。
【担当・経験】
デジタルマーケティングとリブランディングを担当。
分譲地開発のPMや家業の土地活用などの経験を持つ。
リノベした自宅の縁の下に子ども達の夢が描かれている。