賃貸アパート・マンションの大規模修繕!長期計画策定と出口戦略を解説

2023.11.28

賃貸アパートや賃貸マンションを所有しているオーナー様にとって、将来的に避けては通れないことの一つが大規模修繕です。入居者様に安心して住んでもらうためにも、アパートやマンションの環境は整えておかなければなりません。

では、賃貸物件には、大規模修繕を行わなければならない法的根拠があるのでしょうか。この記事では、具体的に賃貸物件における大規模修繕とはどのようなものなのか、長期修繕計画や修繕積立金、資金調達のポイントから出口戦略との関係まで詳しく解説します。

アパート・マンションの大規模修繕とは

分譲マンションの購入を考えたことのある方や、不動産投資を検討している方にとって、「大規模修繕」という言葉は、一度は耳にしたことがある言葉かもしれません。マンション・アパートの資産価値を守る大規模修繕について、まずは、具体的に大規模修繕が必要とされる理由をご紹介します。

なお、アパート・マンションの大規模修繕工事の周期やタイミング、かかる工期の目安などの詳しい解説については、以下の記事を参照ください。

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大規模修繕で安全を確保

大規模修繕とは一定の周期ごとに建物の屋根や外壁、共用施設などの規模が大きい修繕の工事を実施することです。アパートやマンションなどの建物は時間の経過とともに少しずつ劣化し、耐用年数に応じた不具合が出てきます。ちょっとした不具合やトラブルに対しては、都度、補修や部品交換などの対応でも十分でしょう。

しかし、日々のメンテナンスだけでは対応しきれないトラブルが起こるようになったり、経年劣化が進んで建物に傷みが出てきたりすると被害が拡大します。常に雨風や紫外線に晒されている屋根や外壁は、特にひび割れや剥がれが発生しやすい場所です。定期的に清掃していても、年数が経つと汚れが溜まってくることもあります。

そのまま放置すれば見た目が悪くなるのはもちろん、外壁などが剥がれ落ちれば危険な状況になる可能性もあります。入居者様の安全を守るためにも、物件の所有者として大規模修繕は必ず必要になる工事のひとつとして考えておいたほうがいいでしょう。

大規模修繕で資産価値を維持

大規模修繕を実施するのは安全確保のほかに、資産価値を維持する目的もあります。適切な修繕がされないまま放置し続けると、建物や設備はますます劣化が進んでしまうでしょう。そうなれば収益物件としての価値も毀損することになりかねません。

もし、雨漏りをしたり、設備に故障や不具合があると、入居者様が生活するうえで支障がでてきます。外壁などの目につく部分の劣化が進んでいると見た目にもイメージが悪くなるため、入居を検討している方に選ばれにくくなる可能性が高まります。

単純に賃料を下げ続ける対策を行っていては、想定賃料を大幅に下回り、当初の出口戦略で描いた見通しと乖離することがあります。入居者様にとっての暮らしやすさが損なわれると、資産価値としても下がることになるのでご注意ください。

出口戦略を考えると、売却額は満室経営に近いほうが次の購入者から収益物件としての価値を評価されます。また、節税効果を得られる方も一定数いらっしゃいます。不動産投資向け物件の購入を検討している方は、必ず大規模修繕の予定や実施履歴を確認します。

入居者様に限らず、購入検討者に選ばれるためにも、メンテナンスをきちんとしておくことが大事です。将来の出口戦略も意識し、大規模修繕はおざなりにならないよう、計画的に実施してください。

アパート・マンションにおける大規模修繕の法的裏付け

安全の確保や資産価値の維持のために必要とされる大規模修繕ですが、法的には義務付けられているのでしょうか。次に大規模修繕の実施が法的に義務付けられているのかどうか、分譲マンションの場合と賃貸アパート・マンションの場合に分けて解説します。

分譲マンションにおける大規模修繕

結果からいうと、分譲マンションの大規模修繕を義務付けている法律はなく、区分所有法やマンション管理適正化法の中にも大規模修繕を行わなければならないという規定はありません。

ただし、建築基準法8条では、建物の所有者や管理者に対する建築物の維持保全についての規定があります。具体的には「建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない」と記載され、区分所有者には物件を適切に維持することが求められているのです。

民法第717条でも、土地の工作物等の占有者及び所有者の責任について触れられています。「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う」とされています。

民法の規定によると、もし、劣化した外壁が剥がれ落ちて通行人に怪我をさせてしまった場合、所有者には損害を賠償する責任が生じてしまうため、物件の維持保全はおろそかにできないでしょう。

ほかにもアパート・マンションなどの共同住宅では、警報装置や消火装置など、消防法によって義務化されている消防設備があります。定期的な法定点検や管轄の役所への報告義務もあるため、大規模修繕でも修繕や交換を含めて対応する必要があります。

出典:e-gov建築基準法

賃貸アパート・マンションにおける大規模修繕

賃貸アパート・マンションにおいても、分譲マンションと同じく、大規模修繕の実施を義務付ける法律はありません。ただし、民法では賃貸物件のオーナー様に対し、使用収益義務と修繕義務が定められています。

民法の601条から622条までは、賃貸借に関する内容です。601条では「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと」と記載されています。

賃貸借契約はオーナー様が賃貸物件を使用収益させ、かわりに入居者様が賃料を支払う契約だということです。民法ではオーナー様に、居室を入居者様の生活する場所として配慮する義務があるとされています。

さらに606条では「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」とされ、オーナー様が物件の修繕義務を負うことも定められています。入居者様に原因がある場合は別ですが、そうでなければオーナー様側に入居者様の使用収益に適した状態を保つ義務があるということです。

一棟ものではなく、投資用の区分マンションのオーナー様も同様の義務があります。区分マンションの場合、オーナー様は一区分所有者なのでマンション全体の大規模修繕計画を決めることはできません。この齟齬が入居者様とのトラブルに発展するケースもあります。

以上のように、賃貸アパート・マンションにおいて大規模修繕を義務付ける法律はないといっても、実質的には入居者様に安心して住んでもらうために必要な修繕はオーナー様が行う必要があります。

出典:e-gov民法

アパート・マンションの長期修繕計画と修繕積立金

大規模修繕はその名の通り「大規模」なもので、資金も時間もかかります。長期計画と修繕費用を賄うための工事資金を積立てる必要があり、思い立ってすぐに実施できるものではありません。前述の背景を踏まえながら、次に大規模修繕を実施するための長期修繕計画と修繕積立金について解説します。

なお、賃貸アパートにおける大規模修繕工事の費用相場と実際の大規模修繕の事例については、以下の記事を参照してください。

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大規模修繕における長期修繕計画の例

分譲マンションの大規模修繕はおおよそ12~15年ごとの周期で実施するのが一般的で、賃貸アパートやマンションもこれに準じるものとされています。国土交通省では大規模修繕についてガイドライン「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」を作成しています。

建物に使う建材や建て方、立地によって多少の違いはありますが、RC造20戸(1LDK~2LDK)のマンションのケースで具体的に長期修繕計画を考えてみましょう。

築5~10年経つとベランダ・階段・廊下などの塗装、室内設備の修理や配水管の高圧洗浄等の実施を検討する時期になります。2回目の築11~15年目には屋根・外壁の塗装、ベランダ・階段・廊下は塗装に加えて防水工事も必要になってきます。配水管も再び高圧洗浄し、修理で不具合を解決できない給湯器などは交換が必要です。

築16~20年目になると屋根や外壁は塗装し直すだけにとどまらず、葺替したほうがいい状態になることもあります。ベランダ・階段・廊下の塗装や防水工事、配水管の高圧洗浄等も再び実施し、浴室設備等の修理や交換もそろそろ視野に入れる時期です。

築26~30年経過すると、ベランダ・階段・廊下の塗装、室内設備の修理、給配水管の高圧洗浄や交換のほか、外構にも修繕の必要な箇所がでてくる可能性があります。

出典:国土交通省 民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック
https://www.mlit.go.jp/common/001231406.pdf

大規模修繕の修繕積立金

分譲マンションの場合は居室それぞれに区分所有者が存在し、区分所有者からなる管理組合が組織されています。そのため分譲マンションでは大規模修繕に備え、管理組合が住民から毎月修繕積立金を徴収しています。

一方で、賃貸アパート・マンションの入居者様は賃借人であって、物件の所有者ではありません。物件の所有者はあくまでもオーナー様であり、大規模修繕の費用もオーナー様が用意する必要があります。ただ、大規模修繕の時期を迎えて、いきなり大金を用意するのは簡単ではないでしょう。

大規模修繕に関する長期修繕計画を立てることで、運営に必要な費用をある程度把握できます。オーナー様は長期修繕計画のスケジュールをふまえて、物件購入時から修繕積立金として費用を積み立てておくことが重要です。また、賃貸物件のオーナー様向けに、「修繕積立共済制度」が立ち上げられています。共済制度を利用すれば掛け金が非課税となるため、利用を検討してみるのもいいでしょう。

出口戦略を意識する

賃貸アパート・賃貸マンションの経営において、分譲マンションの所有と考え方が大きく異なる部分は、「出口戦略を意識する」ということです。分譲マンションは実需の共同住宅であるため、基本的に住み続けることを前提として大規模修繕計画が立てられています。

賃貸物件にお住いの入居者様にとっては生活の場であるものの、オーナー様にとっては不動産投資及び賃貸経営というビジネス視点が求められます。そのため、賃貸経営では必ず出口戦略があり、出口を迎えてはじめて不動産投資の結果が確定します。出口戦略の選択肢は一つではなく、投資の目的やご自身の状況により千差万別の出口が存在します。

例えば出口戦略としては収益物件として賃貸経営を存続したまま売却する、収益物件を更地にして売却する、建て替えるなどの方法がよく検討されます。投資目的の種別にも節税や相続税対策、資産形成など何に対応するのが良いか優先順位が変わります。

間違った出口戦略をとれば余分な費用が発生し、最終的に損失を出すことにもなりかねません。投資目的が違えば出口戦略も異なってくるため、出口を見据えたうえで大規模修繕の計画を立てる必要があります。

収益物件を高値で売却する方法と注意点、出口戦略の立て方については、以下の記事を参照してください。

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収益物件を高値で売却する秘訣と注意点|出口戦略の立て方も解説!

賃貸経営・出口戦略の視点から考える大規模修繕計画

では、賃貸マンションや賃貸アパートの大規模修繕はどのような手順で実施していけばいいのでしょうか。ここからは大規模修繕のポイントについて、資金調達と入居者様への告知、コストの最小化と効果の最大化、賃貸管理会社への相談に分けて詳しく解説していきます。

なお、アパート経営全体の資金計画と出口戦略については、以下の記事を参照してください。

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アパート経営に必要な自己資金はいくら? 成功に導く出口戦略と資金計画

大規模修繕に必要な資金調達を考える

先述したように、賃貸アパート・マンションではオーナー様が修繕積立金を準備しておく必要があります。しかし、大規模修繕では一度にまとまった費用が必要になります。例えば国土交通省の「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」では、RC造20戸(1LDK~2DK)のマンションで1棟あたり5~10年目に約170万円(8.5万円/1戸)、11~15年目で約1,090万円(54万円/1戸)の費用がかかると見積もられています。

その後も16~20年目や20~30年目に約460万円、21~25年目では約2,320万円(116万円/1戸)かかるとされ、適切かつ計画的に修繕積立金をつみたてなければ、資金が不足する可能性もあるでしょう。

投資戦略上、借入金を活用してレバレッジを効かせるために、全額自己資金ではない方法を採用することもあります。資金調達については、投資目的や出口戦略もふまえて複数考慮しておくといいでしょう。

リフォームローンで資金調達

リフォームローンは、金融機関から借り入れをする資金調達方法です。個人が自宅をリフォームするときに使えるリフォームローンのように、アパート・マンションの共用部分を工事する際に利用できるリフォームローンも存在します。リフォームローンは住宅金融支援機構のほか、さまざまな地方銀行や信用金庫などでも独自のローン商品が用意されています。

大規模修繕に利用できるリフォームローンでは、外壁塗装や屋上防水など外部の工事から、階段・廊下の補修、内装工事や住宅設備の設置など内部の工事まで対応しています。耐震工事や太陽光発電設備をはじめとした環境配慮型設備の設置に対応しているリフォームローンもあるため、ニーズに合わせて利用することが可能です。

割賦工事で大規模修繕費用を捻出

大規模修繕で建物の寿命を延ばすとともに、入居者様が快適に過ごせる空間を整えるためのリノベーションもできるのなら、レバレッジ戦略としてリフォームローンを活用するのもいいでしょう。

ただ、メンテナンス会社や賃貸管理会社によっては、割賦工事に対応している会社もあります。工事費用を割賦払いできれば、入居者様から得られる毎月の家賃収入との相殺で大規模修繕を実施することも可能です。

大規模修繕も含め、賃貸経営をトータルでサポートしてくれる賃貸管理会社ならば安心です。資金調達方法にはリフォームローンや割賦工事以外に、以下で解説する補助金や助成金などを活用する選択肢もあります。所有している賃貸アパート・マンションの状況や資金の状況を踏まえ、補助金申請なども検討するといいでしょう。

補助金・助成金で大規模修繕費用を補填

大規模修繕を実施するための予算が不足している場合に活用できるのが、国や地方自治体が民間賃貸住宅向けに提供している補助金・助成金の制度です。ただし、補助金や助成金を受けるためには、要件を満たしたうえで申請する必要があります。なお、補助金は応募したうえで審査に通れば支給される制度、助成金は要件を満たしていれば支給される制度で、どちらも基本的に返済義務はありません。

代表的なものとして、マンションの適正な維持管理促進を目的としたマンション改良工事、共用部分をバリアフリー化する工事、耐震性を向上させる工事などに対する補助金・助成金があります。補助金や助成金の制度は新しいものが開始されたり、制度が終了したりすることがあるため、その都度チェックしてみてください。

大規模修繕に伴う入居者様への告知

実際に大規模修繕を実施することになったら、入居者様に対しては事前に丁寧な告知を行うことが大事です。大規模修繕にはそれなりの期間がかかるため、入居者様には不便な生活を強いることになります。実際に工事の騒音や臭いなどのほか、窓が開けられない、洗濯物をベランダに干せないなどのクレームが発生することも少なくありません。

そもそも大規模修繕があることを知らなかっただけでも、クレームにつながる可能性があります。大規模修繕の工事中は入居者様にとって、それだけストレスが溜まるものです。賃貸借契約ではオーナー様に大規模修繕の告知義務はないものの、トラブルを避ける意味でも、あらかじめ工事業者や賃貸管理会社に丁寧な対応をしてもらうように伝えておくといいでしょう。

ライフサイクルコストから考える「コスト最小化」と「効果の最大化」

賃貸アパート・賃貸マンションの経営では、大規模修繕を含めて建物のライフサイクルコスト(LCC)の観点で考えることがポイントです。賃貸アパート・マンションを所有していれば、さまざま費用が発生します。中でも費用が高額になるのが大規模修繕であり、1回ですむものでもありません。しかし、安全の確保や資産価値の維持のためには必要です。

ライフサイクルコストとは建物や設備を建築・購入してから、売却・廃棄までにかかる費用をトータルで捉えたものを指します。賃貸経営では全体のコストを最小化しつつ、費用対効果の最大化を目指すのが定石です。

コストを抑えながらも収益効果を得るためには、まず将来的にどれだけ費用がかかるのか、大規模修繕も含めて想定しておくことが大事です。

経験豊富な賃貸管理会社に相談

賃貸アパート・賃貸マンションの賃貸管理はオーナー様が自分で行うこともできますが、専門的な業務が複雑に関連するすべての事象を捉えて改善策に対応し続けることは、そう簡単にできることではありません。実際には日常的な建物の維持管理や入居者対応などの管理業務を、賃貸管理会社に任せているオーナー様が多くいらっしゃいますが、全ての管理会社が大規模修繕に対応しているとはかぎりません。

大規模修繕や出口戦略まで見据えた賃貸経営をするためには、大規模修繕の経験や施工パートナーがいる賃貸管理会社に委託するのがおすすめです。先述したコストの最小化と効果の最大化を踏まえ、適切な時期に適切な内容の大規模修繕を行う必要があるからです。

実際に大規模修繕を検討する段階になったら、具体的な方法についても細かく調査・相談して、大切なパートナーを決めるようにしてください。

オーナー様の賃貸経営と伴走する賃貸管理会社の選び方に関しては、以下の記事を参照ください。

【必読】賃貸管理会社の選び方!運用益と出口戦略を見据える賃貸管理

大規模修繕計画策定の「まとめ」

賃貸アパート経営・賃貸マンション経営において、大規模修繕は資金的にも時間的にも大きなイベントになります。大規模修繕を首尾よく行えれば、不動産投資を成功に導く確立が高まるでしょう。賃貸用の一棟アパート・一棟マンションの大規模修繕とは別に、区分所有者がいる分譲マンションの大規模修繕とは進め方が全く異なります。

賃貸物件ならではの大規模修繕の計画、資金調達、出口戦略については、経験豊富な信頼できる賃貸管理会社に相談しましょう。賃貸経営の困りごとをトータルでサポートしている【リロの不動産】に相談してみてください。

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この記事を書いた人

秋山領祐(編集長)

秋山領祐(編集長)

【生年月日】昭和55年10月28日。
【出身地】長野県上田市。
【趣味】子供を見守ること。料理。キャンプ。神社仏閣。
【担当・経験】
デジタルマーケティングとリブランディングを担当。
分譲地開発のPMや家業の土地活用などの経験を持つ。
リノベした自宅の縁の下に子ども達の夢が描かれている。